MONOistが開催したライブ配信セミナー「MONOist DX & AI Forum 2025~製造業DXの未来とAIの可能性~」において、フロンティアワンの鍋野敬一郎氏が登壇した。本稿ではその内容の一部を紹介する。
アイティメディアにおける産業向けメディアのMONOistは2025年12月10〜12日、ライブ配信セミナー「MONOist DX & AI Forum 2025~製造業DXの未来とAIの可能性~」を開催した。セミナーでは従来のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の取り組みに加え、AI(人工知能)やデータ活用も視野に入れた、実践的な変革をテーマに取り上げた。本稿では、「本当に使えるERPシステムとごみ屋敷にならない統合データ基盤~その構築ノウハウと期待する活用効果~」をテーマに、フロンティアワン 代表取締役の鍋野敬一郎氏が行った基調講演の一部を紹介する。
鍋野氏はまず、日本企業の現状を把握するため、30年前(1995年)と現在(2025年)の世界時価総額ランキングトップ30を比較した。
現在のランキングでは、AI関連や半導体関連が上位に位置しており、当時30位以内に多数ランキングされていた日本企業は入っていない。日本でトップのトヨタ自動車も5倍以上伸長していることから、当時と比べて成長していないわけではない。しかし、その他の世界の企業がそれを上回る成長をみせているのだ。鍋野氏は「コストダウンや効率化も重要だが、それ以上にもっと成長しなければいけなかった」と指摘した。
経済産業省が2018年に、既存システムがDXの足かせとなる危機を指摘した「2025年の崖」レポートを公開してから約7年が経過した。この間、日本は「コスト削減」など内向きなDXにとどまったのに対し、米国やドイツは「売上高/利益増加」など外向きのDXが進んだことが時価総額にも反映されている。さらに日本のデジタル領域においては、かつて情報システム子会社を売却するなどIT機能の外部化を進めた結果、社内のデジタル化や人材活用の遅れを招く事態となった。現在は再び機能を取り込む動きへと回帰し、人材育成を含めた体制強化を図る動きが加速している。「2025年の崖」への対応を巡っては、変革に成功する企業と、崖を転がり落ちる企業との明暗が分かれる過渡期にあるといえる。
このような状態から、どのようにして這い上がるのかが現状の課題となる。重要なのは、デジタルを実装し、そのデジタルの中にあるデータを活用することだ。活用の手段としてはAIが提示した結果に対し、人間がジャッジするような仕組みに変えていく取り組みが求められる。
鍋野氏は、その中心的な役割を果たすERPについて「最新のトレンド」「機能からデータへ」「データ基盤構築」「ごみ屋敷にしない」の4つの項目を挙げて解説した。
ERPの最新トレンドをみると、直近でも2桁伸長を記録するなど順調に市場は拡大している。その中でも特徴的なのがクラウドERPの台頭であり、SaaS(Software as a Service)型が市場の半数以上を占める。かつて30年前のERP導入時は、部門ごとに散在していた業務システムを統合することが主眼だった。生産実行管理やサプライチェーン管理、経営系の情報分析など、全ての領域を1つのシステムだけでカバーすることは難しく、複数のシステムを組み合わせてデータを連携させて活用する手法が多くとられた。そのため現在でも、ERP単体で完結するのではなく、ERPをハブとして他システムと連携し、会社全体の情報を網羅しながら管理/更新する運用が主流となっている。
企業独自の業務要件やこだわりを反映させようとすれば、システムには柔軟性が求められる。しかし、カスタマイズや、カスタマイズによる保守性の低下に対応するにはコストが肥大化する可能性がある。
そこで近年、必要な機能を部品のように組み合わせて構成する「コンポーザブルERP」という考え方が広まりつつある。複数のデータベースやプラットフォーム、クラウド環境をまたぐ場合でも、データの整合性が保たれる仕組みが確立されてきている。これにより、ERPの標準機能はそのまま生かしつつ、会社の独自の要件などはマイクロサービスで補完するアプローチが可能になった。
すなわち、ERPの標準機能を最大限活用しつつ、企業独自の競争力に関わる個別要件をいかに実装し、データを管理するかがシステム構築の要となる。鍋野氏はそのためのポイントとして、次の4つを挙げた。アドオン開発を避ける「作らないこと」、必要な領域への「機能の絞り込み」、エンドユーザーの視点に立った「直感的な操作性」、APIやローコード、RPAなどを活用した「疎結合連携」だ。
ただし、コンポーザブルERPにはメリット/デメリットが存在するため、自社の戦略に合致するかを顧客が慎重に見極めながら進めていくことが必要だ。こうした背景から、導入から約20年が経過したERPを、グループ会社を含めた全体最適の視点で抜本的に見直し、次世代基盤へと刷新する動きが企業で活発化している。
ERPの役割にも変化がみられる。機能中心のERPから、データ中心のERPへ移行し、データ中心のERPでは蓄積されたデータをAIが解析し将来予測に役立てるなど、AIの活躍の幅が広がっている。また、大手製造業の間では、工場の自動化や省力化、コスト削減などの取り組みをデータと連動させるべく、海外拠点にERPとMES(製造実行システム)の両方を展開する動きが加速している。各拠点でデータが属人化していては、全社的な情報活用が困難だ。そのため、業務の標準化に加えてシステムの統一に努め、そこから得られるデータを経営資源として活用する――といった取り組みが始まっている。
現在の製造業は、サプライチェーンの混乱、コスト増、複雑化する商流、地政学リスクなど多岐にわたる課題を抱えているが、最も重要なのは変化への即応力である。人づての状況把握や判断では、スピードも精度も限界があるためだ。
鍋野氏は「AIやデータを読み解くことで、誰もが正しい解を即座に導き出せる環境を作ることこそが、次世代の基幹システムに求められる方向性であり、そのための標準化だ」と説く。また、「社内業務の属人化は、結果としてサプライヤーや顧客に迷惑が掛かるにつながるため、排除しなければならない。調達や出荷といった部門間、あるいは企業間の連携も、従来のような人手に頼る調整ではなく、システムによる自動化/管理へと移行し、データを予測などに役立てる視点が必要だ」と指摘した。そのためには自社内だけでなく、外部との接続を見据えたシステムの整備も不可欠であり、状況に応じて柔軟にアップデートし続ける運用がより重要となる。
最後に、データ基盤の構築について、鍋野氏はERPを中核に据えた「統合データ基盤」の整備と、それに合わせた運用体制の確立を訴えた。データが整理されず活用されない「ごみ屋敷(データスワンプ)」化を防ぐコツは、徹底した利用者目線にある。「誰が楽になるのか、誰のために作るのか、そしてユーザーから評価されているか」を問い、AIとデータから未来を予測して意思決定につなげることが、他社との差別化や競争力の源泉になるとした。
ダイハツのデータ利活用はどうやって3人から全社へと広まったのか
ソフトウェアデファインドオートメーションを支える制御プログラム構築技術
なぜ工場のスマート化には、MESが必要なのか
製造DXの成否は何で決まるか、「時間あたり100個できます」に隠されたウソ
2026年の最重要事案かもしれない「欧州サイバーレジリエンス法(CRA)」の衝撃
CTCとボッシュSDS、クラウドERP活用で製造DXやGX支援を推進Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
製造マネジメントの記事ランキング
コーナーリンク