ダイハツのデータ利活用はどうやって3人から全社へと広まったのかMONOist DX Forum 2024(1/2 ページ)

アイティメディアにおける産業向けメディアのMONOist、EE Times Japan、EDN Japanは、オンラインセミナー「MONOist DX Forum 2024-製造業の革新に迫る3日間-」を開催。本稿では「製造現場においてデジタル変革の一歩を踏み出すためには」をテーマに、ダイハツ工業の太古無限氏が行った基調講演を一部紹介する。

» 2025年02月28日 07時00分 公開
[長町基MONOist]

 アイティメディアにおける産業向けメディアのMONOist、EE Times Japan、EDN Japanは、2024年12月11日から13日まで、製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)をさらに推進するためのオンラインセミナー「MONOist DX Forum 2024-製造業の革新に迫る3日間-」を開催した。

 本稿では「製造現場においてデジタル変革の一歩を踏み出すためには」をテーマに、ダイハツ工業 DX推進室 デジタル変革グループ長 兼 東京LABO シニアデータサイエンティストの太古無限氏が行った基調講演の模様を一部紹介する。

仲間を増やす/テーマを集め/事例を作るで拡大

ダイハツ工業の太古氏 ダイハツ工業の太古氏

 ダイハツ工業では2017年に非公式の3人のワーキングチームで始まったAI(人工知能)活用の取り組みが「仲間を増やす、テーマを集め、事例を作る」により、今では全社のデータ利活用まで広がってきた。

 その結果、専任組織を設ける工場ができはじめ、デジタル変革活動が自律的に推進されている。講演ではこうした状態に至るまでの活動を説明した。

 自動車業界は100年に一度の大変革期を迎えているといわれる。その時代にあって、ダイハツ工業では、社内のAI使用が遅れているとの危機感から、AI活用への取り組みが始まった。

 太古氏は当初、データとAIおよびアイデアがあれば、会社の文化、風土に合わせたAIの導入および工場DXにつながるとみて、それを行うために重要となるのはデータの活用だと考えた。

 これまで、社内では自動車メーカーとしての自工程完結が教育されてきた。自分の部署内だけで品質確保さえしておけば、他の部署のことは知らなくても、良品のクルマが作れるという意識が植え付けられていた。隣のグループの仕事が分からなくても、自分のタスクだけをやり切ればよいという指導をされているため、データを共有するという文化が育ってこなかった。

3人の勉強会からスタート、身近な事例づくりに挑戦

 データ共有には、データ基盤が重要となる。必要なデータを、欲しい時にすぐに確認できたり、またデータ分析ができたりするような環境が望まれた。これに対してはほとんどの人が賛成だが、データ活用するためのプロセスが分かりづらかったりすることなどが壁となった。

 特に活用、可視化するためのデータ基盤が必要となるが、整備するには時間と費用がかかることから、経営者などからは否定的な声もあった。計画を進めるためには、投資対効果の算定や、実際のユースケースを積み上げる実績づくりが不可欠だった。

 それに対して太古氏らは、データ基盤を必要とする風土づくりを行うため、まず人材を育成して、社内の身近な事例づくりから開始した。最初は3人でスタートし、業務終了後に機械学習のディープランニング活用に関する勉強会を始めた。

 2017年当時はまだAIに関する社内の認知度は低かったが、活動を発信していくことで理解者も現れてきた。社員のAI活用を支援する「東京LABO」を新設してデータサイエンティストが働きやすい環境を構築し、東京支社での人員増にも取り組んだ。その活動がトップにも伝わったが、「周りを納得させるような事例を作るように」という指示もあり、太古氏らは小さな実績を積み重ねながら活動を続けた。

仲間づくりを着実に実践、残ったアイデアが成功

 取り組みに当たって太古氏は「方向性を決めて、社員一人一人が少しずつ変えていくようなことが重要と考えて、仲間づくりに力を注いだ」としている。仲間となった人たちのスキルを高めて、結果を出してもらうという泥臭い活動を続けた。アイデアが上がってきたら絞らずに全てやってみることにし、「結果的に残ったものが成功」という発想で進めた。

 自発的にさまざまなイベントを企画、展開するとともに、一緒に活動してもらえる人を探した。デジタルに興味があり、やる気のある人を戦略的に集めて育成し、元の職場で活躍してもらい新たな人材の育成につなげるというものだ。

 ただ、AI活用に求められるスキルは時代の移り変わりとともに変化しており、ブログラミングができるだけではなく、デジタルツールを使うことで成果を上げる人材の重要性が高まっていた。

 そして、工場内での実際の課題に対しては、解決のためにベンダーに頼むと費用がかさむため、自分たちで生成AIのツールなどを使って作成できるようにした。

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