製造DXの成否は何で決まるか、「時間あたり100個できます」に隠されたウソ“脱どんぶり勘定”の現場改善術(1)(1/4 ページ)

本連載では、製造、モノづくり領域に特化したプロ人材の伴走支援サービス「ウィズプロ」のプロフェッショナルが、現場の複雑な課題を整理し、改革を前に進めるための「実践的な手順」や「陥りやすいワナ」を具体的に解説します。今回は、IE(インダストリアル・エンジニアリング)の視点から、現場の数字をどう捉え直すべきかを取り上げます。

» 2026年01月26日 07時00分 公開

 製造業の現場では、慢性的な人材不足やサプライチェーンの混乱、DX(デジタルトランスフォーメーション)/データ活用、品質、設備、物流など、複合的な課題が同時進行しています。一方で「何から着手すべきか」「誰が推進役を担うべきか」が定まらず、改善が止まってしまうケースも少なくありません。

 本連載では、製造、モノづくり領域に特化したプロ人材の伴走支援サービス「ウィズプロ」のプロフェッショナルが、現場の複雑な課題を整理し、改革を前に進めるための「実践的な手順」や「陥りやすいワナ」を具体的に解説します。

 特に、DXを“ツール導入”で終わらせず、現場が前に進む状態に変えるためには、データを活用する前段階として、正しい「基準(モノサシ)」を作り、「現状を正確に把握すること」が不可欠です。本稿ではその入口として、IE(インダストリアルエンジニアリング)の視点から、現場の数字をどう捉え直すべきかを取り上げます。

 “理想論”ではなく、現場で前に進めるための実務視点を、毎回お届けします。

はじめに:その数字は「実力」か、それともただの「結果」か

「このラインの生産能力はどれくらいですか?」

 私が製造現場で、現場の方に必ず最初に投げかける質問です。

「はい、このラインは時間当たり100個です。日産で言うと、稼働8時間で800個がベースラインになります」

 非常に明快な回答と感じられるかと思います。生産管理システムにもその数字が登録され、日々の生産計画もその数字を前提に組まれています。その日の実績が102個なら「優秀」、98個なら「誤差の範囲」、90個なら「トラブル対応のため停止時間があった」として日報に記録される。一見、何の問題もない、日本の製造現場で当たり前に繰り返されている光景です。

 一昔前(10年程前)であれば、これほど即座に数値が返ってくる現場は少なかったかもしれません。しかし昨今では、経営層からの生産性向上の号令のもと、こうした数値管理自体は、日本の製造現場において当たり前の作法として定着しています。

 私はその答えを聞いた後、追加でこのような質問を投げかけます。

「その『時間100個』というのは、誰が決めた数字ですか? 設備の物理的なスペックから割り出した数字ですか? それとも、過去の実績平均ですか?」

 この問いに対して、自信を持って論理的な回答ができる現場は、少ないのが現実です。「昔からこの数字で管理している」「ベテランの作業長がそう言っている」「先月の平均実績がそれくらいだった」――。あえて厳しい言い方をしますが、これらは全て「ナリユキ(成り行き)」であって、「エンジニアリング」ではありません。

 「過去に100個できた」という実績は、あくまで「そのときはたまたま100個だった」という結果の記録に過ぎません。そこには、作業者の小さな手待ち、設備の瞬間的な停止、材料の取り置きミスによる遅れ、朝一番の立ち上がりの悪さなど、現場で起きているあらゆる「ロス」が含まれたままになっています。

 多くの現場は、このロスを含んだ数字を「自分たちの実力(標準能力)」だと錯覚しています。その結果、本来もっと高いポテンシャルがあるにもかかわらず、「100個作れたからOK」と満足し、改善の天井を自ら低く設定してしまっているのです。

 昨今、DXという言葉が飛び交い、工場にIoT(モノのインターネット)センサーやAI(人工知能)カメラが導入されるようになりました。しかし、ツールが進化しても、それを使う人間の思考が「ナリユキ管理」のままであれば、高価なデジタルツールは単なる「高機能な日報作成機」に成り下がります。

 だからこそ今、私たちはもう一度、製造業の原点である「IE(インダストリアルエンジニアリング)」に立ち返る必要があります。それは、ツールを導入することではありません。「時間当たり何個できるか」という問いに対し、過去の実績ではなく、物理的、理論的な限界値、すなわち「理論原単位」をもって答える姿勢を持つことです。

 本稿では、DX時代におけるIEの学び直しとして、多くの現場が見落としている「理論」と「実績」のギャップ、そしてデジタルデータを使ってそのギャップをどう埋めていくべきかについて、現場の実態を交えながら解説していきます。

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