EV専用工場は作らないがEV比率100%も可能、マツダの電動車生産モノづくり最前線レポート(1/3 ページ)

EVの専用工場をつくらないと宣言したマツダ。さまざまなパワートレインの車両を混流生産すれば、EV専用工場の新設に比べて設備投資を大幅に抑制できる、というのがその理由だ。ラージ商品群や電動化に合わせて導入した最新の混流生産はAGVがカギを握る。

» 2025年06月25日 09時00分 公開
[齊藤由希MONOist]

 EV(電気自動車)の専用工場をつくらないと宣言したマツダ。さまざまなパワートレインの車両を混流生産すれば、EV専用工場の新設に比べて設備投資を大幅に抑制できる、というのがその理由だ。

 混流生産そのものは、マツダに限らず自動車メーカー各社が取り組んでおり珍しくはない。マツダとしても、各車種に合わせて生産工程や設備を設計していた過去を反省し、サブラインとメインラインに分けた生産ラインを構築した。車種によって異なるパワートレインや内装はサブラインでモジュール化し、メインラインで車体に組み付ける。メインラインはそれ以前と比べて短くなり、工程数は4割削減された。また、マツダの混流生産は、車両だけでなくエンジンでも行われている。複雑な構造の「SKYACTIV-X」も含めた3世代のエンジンを同じラインで生産してきた。

 マツダの防府工場(山口県防府市)では、「CX-60」「CX-70」「CX-80」「CX-90」から成るラージ商品群を2022年から導入するに当たって、車両を生産する西浦地区第2工場(防府第2工場)をリニューアルした。ラージ商品群の各モデルだけでなく、2028〜2030年に投入予定で自社開発のEV(電気自動車)専用モデルやHEV(ハイブリッド車)も含めて混流生産できるようにした。

ラージ商品群の1つであるCX-90[クリックで拡大]

 マツダ 常務執行役員(生産技術・グローバル品質・カーボンニュートラル・コスト革新担当)の弘中武都氏は「市場の動向が大きく変わってEVシフトが進んだら、防府第2工場の生産が100%EVになっているだろう」と述べ、混流生産の柔軟さに自信を見せた。

 ラージ商品群や電動化に合わせて導入した混流生産はAGV(無人搬送車)がカギを握る。防府第2工場だけでなく、防府第1工場や本社工場(広島県府中町、宇品地区)にも導入する可能性があり、電動車を生産できる拠点は増やしていけるという。電動化が進む中でも縦スイング(異なる車種の混流生産)/横スイング(他の拠点への生産モデルの移管)で防府工場と本社工場を1つの工場のようにしていくのは変わらない。

一括企画だからEVも織り込み済み

 まだ詳細が明かされていない自社開発EVも、それよりも以前に開発が完了したラージ商品群も、混流生産ラインで同じように流せるのはBOP(Bill of Process、工程表)を合わせているからだ。生産部門と設計部門が膝詰めで事前に議論した「一括企画」によって、工程構成要素となるBOPをそろえる。自社開発のHEVも同様だ。

 一括企画は、5〜10年先を予測しながら多様な車種を1つの車種のように開発/生産できるようにしていく取り組みで、マツダでは2006年から「ものづくり革新1.0」の一環で始めた(その成果は2012年の「CX-5」から次世代技術「SKYACTIV」として導入された)。2015年から進行している「ものづくり革新2.0」ではEVからエンジン車までの一括企画を行い、現在のEVにも対応する防府第2工場の柔軟な生産体制を準備してきた。

 ラージ商品群にはPHEV(プラグインハイブリッド車)が用意されている。混流生産ではEV専用の設備は用意せず、PHEVと同じ設備でEVにも対応する。PHEVにはないEV特有の形状には小さなアタッチメントで対応するため、投資を抑制できる。

 電動化のマルチソリューションの提供に向けて2025年3月に発表した「ライトアセット戦略」では、「既存資産を活用してEVとエンジン車を混流生産することにより、EV専用工場の新設と比較して初期設備投資を85%減、量産準備期間を80%減に抑える」と説明していた。EVも見据えた混流生産が「ライトアセット」の一例となる。

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