太陽電池市場とその動向小寺信良のEnergy Future(2)(3/3 ページ)

» 2011年08月10日 08時20分 公開
[小寺信良,@IT MONOist]
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コスト構造と製品評価軸

 ソーラー発電製品製造のプロセスは、複数の段階に分かれている。材料調達、ウエハ製造、セル製造、ソーラーパネル(モジュール)製造だ。さらにその先には電力コントロールのためのパワーコンディショナーを付けて商品化する工程がある。

 これらの工程におけるコスト構造は、いわゆるスマイルカーブを描く。材料となるシリコンは、世界全体の需要量の増減を見越すのが難しく、相場が大きく変動する。利益も大きいが、損をすれば会社ごと吹っ飛びかねない。このため多くの会社では、材料調達は別会社にしたり、共同購入してリスクを分散する例が多い。

photo 製造工程の利益率はスマイルカーブを描く

 スマイルカーブの底辺部に位置するのが、セル製造である。多くの太陽電池メーカーが、製品パーツとも言えるセル単体を販売していないのは、それをやっても利益率が低いからだ。だから作り始めたら是が非でも一般家庭に流通する商品化まで、垂直統合でやっていくのが普通である。

 例外的にドイツのQセルズは、セル単体の販売を中心にビジネスを展開している。2008年頃まではいわゆる「太陽電池バブル」状態にあり、原材料費であるシリコンの価格上昇を強気で押し切り、高い利益率を誇った。しかし2009年にバブルがはじけ、さらにリーマンショックも重なってシリコン原価が急落したことで、13億5千万ユーロという巨額の赤字を計上することになった。このような例もあり、太陽電池メーカーは垂直統合への傾向をより強めてきている。

 消費者にとって重要なのは、製品価格と最終的なパネルモジュールの変換効率のバランスである。特に変換効率は、メーカー選びや方式の将来性を見極めるうえでの重要な指標となる。しかしモジュール化したときの変換効率にも、さまざまな技術が存在する。

 変換効率は、太陽電池のパーツであるセルと、それらが並べられて1つのモジュールとなった状態の2つがある。通常セルの効率は、その製造方式の最大値と考えられる。これに対してモジュールの効率は、実効値として下がるのが普通だ。

 太陽電池の変換効率とは、太陽電池の面積1平方センチメートルに光エネルギーが当たった場合の、最大電力で求められる。従ってモジュール面積に無駄があると、計算値でそれだけ効率が低く出てしまう。

 モジュール面積の無駄とは、セルとセルのすき間、配線部分、外枠など、発電しない面積だ。実装技術でこれらをなるべく減らすことで、セルの変換効率に近づけることができるわけだ。

 この方法としては、米サンパワーなどが製品化している「バックコンタクト」という技術がある。これはセルの電極や配線をすべて太陽電池の裏側に回すことで、表面の効率を上げるものだ。

 もうひとつ、三洋電機が製品化している「両面発電」という技術がある。三洋電機のセルはもともと裏表対称構造になっており、裏面でも発電可能である。ただ裏側から光が入るようにモジュールを作り、設置するのが大変なわけである。こちらはまだ採用例は少ないが、東京では銀座三越の屋上「銀座テラス」屋外側面に設置されているのを見ることができる。

photo 銀座・三越の屋上にある両面発電型のソーラーモジュール

 もちろん裏面も発電するからといって、効率が2倍になるわけではない。斜めから差し込む光の反射を利用して、多少手助けする程度である。しかも裏面まで発電できるのは、セル裏面まで表面加工が行なわれたものになるため、価格が跳ね上がる。

 現時点では、高効率=高価格という図式だが、なにしろ多種多様な方式が今もなお研究開発が進んでいる世界だ。従来方式の低価格製品にもそれなりに市場があり、高効率高価格商品もそこに同居しているあたりは、かつての自動車業界と近いものがあるように感じられる。

(取材協力:三洋電機)

筆者紹介

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小寺信良(こでら のぶよし)

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

Twitterアカウントは@Nob_Kodera

近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)



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