太陽電池市場とその動向小寺信良のEnergy Future(2)(2/3 ページ)

» 2011年08月10日 08時20分 公開
[小寺信良,@IT MONOist]

製造ロスと製造エネルギーの課題

 ソーラーフロンティアを別にすれば、日本国内で製造している太陽電池の大半は、シリコン系である。ここでシリコン系のことを詳しく知っておくのも悪くないだろう。

 シリコン系には大きく分けて単結晶と多結晶という2つの種類がある。この両者は、見た目で分かる。表面に複雑で不定形の模様が入っているものが多結晶、模様がなくほぼ真っ黒なのが単結晶だ。またそれぞれのセルの形も違う。多結晶は角が直角で、単結晶は角が丸くなっている。

 この形の違いは主に製造工程の違いから来ている。多結晶の場合、原料のシリコンを炉に入れて溶かし、四角い型に流し込んで固める。このシリコンの塊を「インゴット」と呼ぶ。このインゴットを食パンを切るようなイメージで薄く切り出すことで、セルの基本となるシリコンウエハを作っていく。

photo 多結晶シリコンウエハの製造工程

 多結晶シリコンのメリットは、製造工程が比較的短時間で済むという点だ。変換効率は単結晶には劣るものの、実用上問題のないレベルで量産性に優れている。

 一方単結晶シリコンは、固まる(結晶化する)ときにかなりの時間をかけている。単一な結晶となるように、インゴットは円柱状になっており、それを回転させながらゆっくり引き抜いてやる必要がある。

 この円柱から、角材を切り出すようなイメージで4辺をカットして角柱を作り、それを薄切りにしていく。ここでギリギリの断面積を稼ぐために、真四角にせず、周辺を少し残す格好にする。これが単結晶の端が丸まっている理由である。カットした部分はまた溶かして再利用するのだが、出来上がるウエハは投入した材料に比べると30%程度しかできない。

photo 単結晶シリコンウエハの製造工程

 多結晶、単結晶ともに材料のロスで最も大きいのが、インゴットを薄切りにしてウェハにスライスする工程である。要するに切りくずが大量に出るわけだ。切りくずだって集めて再利用すればいいじゃないかと思われるかもしれないが、スライス時には研磨剤などを加えながら切り出しているので、切りくずに不純物が大量に混入する。材料コストの改善には、この切りくずからシリコンを高効率で分離する技術が必要になってくる。

 もう一点、もっと大きな意味でのロスとして、太陽電池工場が果たす社会的役割というものがある。環境に対してどのような収支か、ということだ。

 太陽電池工場の生産能力を表わす一つの単位として、MW(メガワット)/年がある。製造する太陽電池の総発電量を年単位で合計した値だ。例えば100MW/年の製造能力がある工場があったとしよう。この工場が製品を製造するのに100MW/年以上の電力がかかったら、年間としてはエネルギーを損していることになる。普通の工場ならば、お金で製造コストが合えば採算が取れると考えるわけだが、再生可能エネルギーの元を作る工場では、このように年間エネルギーの総量としてどうなのか、という点も評価に入ってくる。

 もちろん製造した太陽電池は、このあと世の中に対して何年も電力を生み続けるので、ある意味金の卵ではあるのだが、工場のエネルギー収支で見れば年単位で見ていく必要がある。

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