ソフィアがオンリーワン戦略以外で力を入れるのが評価ボードである。テキサス・インスツルメンツの携帯電話向けDSP「OMAP」、フリスケールのアプリケーションプロセッサ「i.MXシリーズ」、シーラスロジックのARM系マイコンなどを搭載した評価ボードを提供している。これらのチップは、ICEでも対応を得意としているもの。“ツールチェーン”の1要素として提供する。
ソフィアの評価ボードで特徴的なのは、実際の携帯電話機(ストレート式)に限りなく近い“評価モデル”となっている「Sandgate II-P/VP/WP」だろう。市販の携帯電話機のようにプロセッサやメモリ、無線LANやCCDカメラのモジュールを実装した基板に液晶モニタ、バッテリやキーパッドを組み合わせ、ボディで覆っている。
無線LAN(VoIP)と移動体通信(PHS)のハイブリッド携帯端末の評価モデル「Sandgate II-P」を2005年4月にリリースしたのを皮切りに、II-Pを発展させた「Sandgate VP」を同年11月に発売。そして2006年9月には、ウイルコムの要請もあり、同社のPHSモジュール「W-SIM」を使った「Sandgate WP」を投入した。VPは、評価に使えるWindows CE用とLinux用BSP(ボードサポートパッケージ)がオプションで用意されている。WPは本体とLinux用BSP、デバッグ用ボードのほか、OS、ドライバ、ミドルウェア、アプリケーション(WebブラウザやPIMツール)を備える。それぞれ、プロセッサは現行主流のマーベルPXA270(416MHz)を使う。
「携帯端末でも、開発初期は実機と懸け離れた巨大な評価ボード上で開発している。そこで、最初から最終形態を想定して開発できる環境があれば便利だと考え、Sandgate II-Pを製品化したところ、思いのほか評判がよく、シリーズ化となった。Sandgateは、仕様を完全に公開したイージーオーダー品なので、ユーザーはハード、ソフトとも自由に手を加えられる」(樫平氏)。
ソフィアのこだわりは、やはりICE。SandgateからもICEのビジネスに結び付けられるよう、JTAGポートを搭載したデバッグ用ボードを標準で付属したり(II-P、WP)、本体にJTAGポートを実装(VP)。ソフィアのJTAG‐ICEが使えるようになっている。ICEメーカーだからこそである。「ICEには、USBやシリアルポートを使ったデバッグにはない便利さがあるところを見せたかった。社内の開発陣には『何としてでもICEと接続できるようにしろ』と指示を出した」という。
Sandgateは、携帯端末の開発に携わる多方面のベンダから受けている。特にソフトウェアベンダは、開発を効率化するプラットフォームとしてだけでなく、自社製品を手軽にデモできる環境として有用視している。「モバイル専門展示会では、Sandgateを使ったデモがあちらこちらで見られた」という。Sandgateならば、実機に近い端末上で自社製品の動きを見せられ、メモリ使用量など稼働状況もデータとして示せる。ソフィアでも、こうしたソフトウェアベンダとの協業を進めており、組み込み機器向けWebブラウザやメーラなどを含んだ「IP携帯端末開発用アプリケーションパッケージ:MAAP(Mobile Appliance Application)」(注)を採用している。
部品ベンダでもSandgateへ自社製品を組み込み、セットメーカーへのアピールに使うケースが出ている。村田製作所のWiFi無線LANモジュール、ミツミ電機の指紋センサといった例があるという。また、Sandgate WPはマニアや学生といった個人も関心を示している。特にWPを公開してからは、個人や大学の研究室などからも活用したいという要望が出てきた。そこで、ソフィアはCQ出版と組んで「ケータイ・ソフト・アイデア・コンテスト」を2006年末に開催。100件に迫る応募を集めた(審査を通過した応募者は、通常価格100万円のWP開発キットを10万円で購入できる)。「II-Pを発表した当初は、『本当に使い道があるのか』という声もあったが、いろいろな分野のプレーヤがいろいろな使い方をしている」と樫平氏も満足げである。
Sandgateは、ソフィアのビジネス全体に波及効果を及ぼし始めている。マルチメディア機器、FA装置などの受託開発の案件が増えているのだ。「ICEメーカーのイメージが強く、これまで周囲からシステムまで組めると思われていなかった。Sandgateを出したことで、製品デザインまで含めてトータルに開発できると見られるようになってきた。Sandgateは、われわれの技術力を訴えるプロモーションツールにもなっている」。Sandgateを開発するに当たり、家電メーカーで製品デザインを担当していたスタッフを入れるなどして、開発力を総合的に強化してきたことが功を奏した。
樫平氏は「ICEはわれわれの“米”だが、それだけで売り上げを伸ばしてゆくのは難しい。今後は受託開発を増やしてゆく」と語る。ICEを事業のコアとするソフィアの強みは、常に最新技術に対応し続けていること。枯れることがない。これを基盤として、事業を多層化しようとしているのだ。
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