PLD(Programmable Logic Device)のリーディングメーカーであるザイリンクスは、強固だったASICの牙城を切り崩しつつある。65nmプロセスの新製品も2007年早々に量産化。高性能ASICが担う分野へも切り込んでゆく。
ユーザーが内部論理回路を何度でもプログラムできるPLDは、フルカスタムチップやASIC(セルベース)と比べて開発中に頻繁に仕様変更が起こったり、市場へのリードタイム(Time to Market)が短い機器に向いているとされている。また、プロセスの微細化が進むにつれ、セミカスタマイズのASICは開発コストが増大。大量に売れる機器でないとコスト的に厳しくなっている面もある。その点でも、ロジックを格納する“器”自体は既製品であるPLDの魅力が増しているのだ。
実際、全世界で150億ドル前後とみられるASIC市場に対して、FPGAを中心とするPLD市場は、その3分の1程度の規模になっているとの見方もある。ただし、国内市場に限っていえば、ASICの牙城は固い。ザイリンクス 代表取締役社長の吉澤仁氏も「ASICとPLDの市場規模は2003年で10対1。最近でも7対1ぐらいではないか」と見る。国内の大手半導体ベンダは長年ASICを主力分野としてきたこともあり、機器メーカーの中にはASICをベースとした“開発文化”が根付いている。簡単には崩れない。
だが、吉澤氏は「2010年ごろには、新規デザインで比較すれば1対1となり、PLDはASICに肩を並べる」と強気である。
実際、ザイリンクスは国内市場で業績を順調に伸ばしている。ここ5年にわたり年率15%で売上高を増やしており、成長率は全世界の地域拠点の中でトップクラスという。2000年初頭に通信バブルが崩壊して一時的に業績を落としたが、2006年3月期にはピーク売り上げを超え、以降も更新を続けている。なお、ザイリンクス全体で過去最高を記録したのは2006年度で約17億3000万ドル。そのうち国内売上高は15%前後であるという。
それだけPLD製品は国内需要が伸びている。吉澤氏は、「FPGAを使ったことがない製品分野の機器メーカーがASICからFPGAへ切り替え始めている。一度使ってもらうと、FPGAの魅力が分かってもらえるようだ」と話す。ザイリンクス全体でいえば、売上高の50%弱が通信機器分野だが、日本では同社にとって新しい適用分野であるコンシューマ機器、産業機器の構成比が50%を超える。それが国内市場で好調な要因だ。
ザイリンクスのFPGA製品(高性能「Virtex」シリーズと量販型「Spartan」シリーズ)は、薄型テレビやDVDレコーダ(次世代DVD規格を含む)など情報家電でデザインインを増やしている。中核の画像処理エンジンを補完するコプロセッサとして使うケースが多いという。情報家電メーカーは、半年に一度というペースで競合他社の動向を横にらみしながら新製品をマーケットに投入する。単価ダウンも激しいので、低コストで素早く製品を投入し、早期に回収する必要がある。コプロセッサまでASICで回路を固定的に作り込んでいる時間、コストの余裕がないのだ。
産業機器分野では、例えば日本企業が得意とするロボット機器での採用が進む。かつて隆盛を誇った「74LS」などロジックICからの置き換えが徐々に始まってきたのだ。また、医療機器もFPGA採用に積極的だという。「CTスキャンなどの医療機器は、画像処理機能の高度化が進み、高性能チップが必要になっている。しかも、数量が出ないのでASICベンダが力を入れてこなかった分野」(吉澤氏)。
最近は、CPLD(Complex PLD)製品(注)の「CoolRunner-II」も大きなデザインインを獲得し始めている。例えば、話題の携帯情報端末「W-ZERO3シリーズ」(開発・製造はシャープ)もCoolRunner-IIをコプロセッサとして搭載している。「FPGAにしてもCPLDにしても、50万個を超えるような量産機器に搭載することは考えられなかったが、いまや決して珍しくなくなってきた」(吉澤氏)という。一昔前は、ASICを試作する際にFPGA/CPLDを用いることが多かっただけに隔世の感がある。
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