商用電源の周波数の変化から「ブラックアウト」を予測できるか電力ブラックアウトを予測する(1)(1/2 ページ)

商用の系統電力において発送電システムが崩壊し停電を引き起こす「ブラックアウト」。本連載では、製作費数円程度の自作プローブを使ってブラックアウトを予測するシステムの構築を試みる。第1回は、ブラックアウトと関わりの深い、商用電源の周波数変化がなぜ起こるのかを解説する。

» 2025年01月29日 08時00分 公開
[今岡通博MONOist]

はじめに

 商用の系統電力における「ブラックアウト」とは、発送電システムが崩壊し停電を引き起こす事象のことです。今回の短期連載は、そのブラックアウトなるものについて、電力線の周波数を常時観測また蓄積していけば一般家庭でも事前にブラックアウトを予測できるのではないか、という仮定の基に執筆を始めた次第です。

 自作の簡単なプローブ(製作費数円程度、要はんだ付け)とPCあるいはスマートフォンがあれば、AC電源の周波数を観測することは可能です。プローブの製作やAC電源の周波数観測、観測データからの分析については次回以降に紹介します。今回の第1回は、短期連載の前振りとして、商用電源の周波数変化がなぜ起こるのか、考えられる要因は何なのかについて解説します。

発電機の負荷と周波数変動

 電力会社が各家庭に供給する電力は発電機を回して作ることはご存じの通りです。その多くは電磁誘導を利用しています。磁石の付いた軸を回転させて、磁界を変化させることにより周りのコイルが起電するのです(図1)。

図1 図1 電磁誘導を用いた発電機の仕組み[クリックで拡大] 出所:Wikipediaより、Egmason、CC BY 3.0、ウィキメディア・コモンズ経由で

 そこで多くの場合、磁石を回転させる軸はタービンで回します。何らかの熱エネルギーで水を沸騰させて蒸気タービンを回します。

 現在、日本での主要な発電方法は、火力、水力、原子力、太陽光、風力、バイオマスの6種類があります。これらのうち火力、原子力、バイオマスは、いわゆる蒸気タービンタイプの発電方法です。本連載は、これら3つの発電方法が対象になります。ちょっと悩むのが水力発電なのですが、これも水量を微妙に調整してタービンの回転数を一定数に保つことができるとしたら対象になり得るでしょう。

 なお、太陽光は、太陽電池で発電した直流電力をいったんインバーターという装置で一定の周波数の交流に変換してから送電しています。風力は、風車の羽根を回す風の強さによって発電機の軸の回転数はまちまちなので、どこで周波数を調整しているのか筆者には分かりません。本連載でそれらは主な話題ではないので、太陽光、風力には深入りしません。

 さて、電力負荷と周波数の関係に話を移していきましょう。図2は、一般的な手回し発電機です。ライトが付いているタイプですね。

図2 図2 手回し発電機[クリックで拡大] 出所:Wikipediaより、User:Jarlhelm、CC BY-SA 3.0、ウィキメディア・コモンズ経由で

 皆さんは小学校や中学校の理科の実験で、手回し発電機を回した体験はないでしょうか。図2とは違って、端子が2つ付いていて発電した電力を外に取り出せるようになっているものです。筆者は、外に取り出した電力で豆電球やマブチモーターなどを動作させた体験があります。そのとき、出力端子をショート(短絡)させると発電機を回転させるハンドルがやたらと重くなったのです。両端子を短絡させるということは、発電機につないだ電気的負荷が最大になるということなので、当然の結果と言えばそうなのですが……。

電力重要が増すと電力会社はどのように対応するのか

 これを実際の電力会社の発電所に当てはめてみましょう。送電先となる事業所や家庭の電力需要が増すと発電機の軸に掛かる負荷が増し、そのままでは軸の回転数が低下します。ご存じのように電力会社が供給する電力は交流が使われており、筆者が住んでいる西日本では60Hzです。これは1秒間に60回プラスとマイナスが入れ替わるということです。そしてこの周波数は発電機の軸の回転数に比例します(東日本の電力周波数50Hz)。

 電力需要が増した場合、電力会社は大規模事業者に対し契約に基づき電力の供給を停止します。それでも電力負荷が一定以下に下がらなかった場合は、発電機の出力を制御しやすい制御可能発電(Dispatchable generation)を発動します。ただし、この手順は電力会社により前後するでしょうし、時と場合によっても異なります。とにかく、大きくはこの2つの方法で需要を抑え、電力供給を増やして突発的な需要の変化に対応するのです。

 ここで制御可能発電に対してベースロード電源という言葉があります。これは常に一定の出力で稼働させる発電で原子力発電が最も思い浮かべやすいですね。

 電力会社としては供給量と需要量を常に一致させることが重要で、電力会社の技術者にとって腕の見せ所であり、また大手電力需要者との契約を取りまとめて来た営業職の成果の見せ所でもあります。

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