商用電源の周波数の変化から「ブラックアウト」を予測できるか電力ブラックアウトを予測する(1)(2/2 ページ)

» 2025年01月29日 08時00分 公開
[今岡通博MONOist]
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即応性の高い制御可能発電

水力発電 ※写真はイメージです

 制御可能発電にとって大事なことは即応性です。最も即応性に優れた電力供給方法は送電網に配置されたバッテリーでしょう。これは、他の電力供給手段としては持久力では劣るものの、ミリ秒のオーダーというほぼ遅延時間のない即応性で電力供給を行えます。

 次に即応性に富むのが水力発電です。これは数十秒〜数分以内に電力供給を開始できます。また、天然ガスをエネルギー源とする火力発電施設は、数十分で電力の供給が可能となります。ガスタービン方式の火力発電施設の起動時間は15〜30分とされています。

 これら即応性のある制御可能発電に対して、ベースロード電源として用いられる蒸気タービンを用いた石炭火力発電や原子力発電の施設は起動に数時間を要します。

商用電源の周波数変化が何をもたらすのか

 一方、電力需要が減りすぎて回転数が上がりすぎるのもこれまた問題です。電力需要者に「もっと電気を使ってください」などとは言えないので、電力会社内で何とかするしかないのです。

 電力需要が減りすぎて発電機の軸の負荷が軽くなると、そのままでは回転数が上がり、周波数も上がっていきます。周波数が一定以上になると、その電力を使っている機器に異常をきたします。特に、制御が供給電力の周波数に依存している動力系、いわゆるモーターなどですね。これらは電力の周波数で回転数が変化したりします。

 交流を直流に変換して利用するケースもあります。身近なところでいえばスマートフォンの充電器だったり、ノートPCの電源アダプターだったりします。これらは一つの製品でグローバルに使用できるように、電圧も周波数もある程度幅を持たせて設計してあります。だから、直流に変換して電力を利用する場合は問題ないのかというと、必ずしもそうとは言い切れません。例えば、家庭内で電源アダプターにPCをつなげて単独で使っていたとすると、確かにこの場合はさしたるトラブルは生じないでしょう。

 これが流れ作業を自動で行っている工場だったりするとどうでしょう。先にも述べた通り、交流のまま動かす機器と直流に変換して動かす機器が工場内に混在していることは多々あります。例えば、ベルトコンベヤーを使って製品を流して製造しているラインを思い浮かべてみてください。ベルトコンベヤーの駆動は、周波数に依存する動力系でその脇で動作するロボットアームは直流電源からパルス信号を生成して制御する方式だったとします。すると、周波数のずれが両者の時間同期のずれとなり、仕上がった製品にも影響が出てくるでしょう。もっと端的な例でいうと、圧延工場などでプレス機のラインを駆動する動力系が周波数によって時間同期に狂いが出てくると、まともに圧延が行えず全く製造ができない可能性だって出てきます。

 なお、電力需要が減って余った電力を無駄なく蓄える方法の一つが揚水発電です。ダムなどの高い位置に余剰電力で水をくみ上げて貯めておき、電力需要が増えたときに水を放流して水力発電として利用するのです。

おわりに

 今回はAC電源における周波数の変動要因について考えて見ました。次回は、商用電源の周波数を捉える簡単なプローブの作り方から始めたいと思います。

 なお、ご存じの通り2024年11月9日夜、筆者在住の四国で大規模な停電がありました。大まかなあらましは以下の通りです。

 四国電力管内と本州の電力管内の間には、瀬戸大橋送電線と紀伊水道送電線で電力の融通を行っています。今回の大規模停電では、事故で停止中の瀬戸大橋送電線の復旧作業中に、何らかの原因で紀伊水道送電線の本州側への電気の流れが急増し、四国内の電力供給が不足した状態になって、「周波数低下リレー」が作動したことが原因でした。

 今回の短期連載はもともと興味があって既に執筆に取りかかっており、原稿をほぼ書き上げた後で大規模停電が起きたので、ここで加筆しています。まさに電力不足による周波数低下で起きた停電だったわけですが、今回の大規模停電で作動した「周波数低下リレー」の設定周波数は電力会社にとって最も重要な企業秘密なんでしょうね。このような停電をきっかけに、読者の皆さんにも商用電源の周波数に関心を持っていただけるのではないでしょうか。

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