アプリケーションプロセッサとして携帯電話のコアデバイスとなったDSP。この市場で向かうところ敵なしのテキサス・インスツルメンツ(以下TI)は、次なる照準をデジタル家電など広範な映像機器の心臓部に定め、メディアプロセッサ「DaVinci(ダビンチ)」を繰り出す。ケータイでの成功体験は、DaVinciに受け継がれるのか。
TIといえば、DSP(Digital Signal Processor)の盟主である。デジタル信号処理に特化したマイクロプロセッサであるDSPは、各種デジタル機器の普及に伴って市場を広げ続けている。米Forward Concepts社の調査によれば、2006年で汎用品市場は83億ドル(1ドル116円換算で約9630億円)の規模となった。その市場でTIは62%のトップシェアを持つ(注)。また、2006年のDSP市場の成長率は9%だが、TI自身は17%も伸ばしている。
携帯電話機向け事業の好調が大きく貢献している。この分野に特化したマルチコア製品「OMAPシリーズ」は、リッチなアプリケーションを駆動するプロセッサとして、ハイエンドなGSM端末やNTTドコモのFOMAをはじめとする多くのW-CDMA端末に採用されている。さらにTIは、世界的に見ればボリュームが大きいローエンド端末にも力を入れる。アプリケーション処理とベースバンド処理などの回路やデジタルRF送受信などの回路を1チップに統合し、端末メーカーのコスト要求に応えた「LoCostoシリーズ」である。同シリーズは2006年第4四半期に出荷が始まり、早くも全世界で1000万台以上の端末に搭載され、2007年中に50機種以上が採用する見込みであるという。
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こうした実績から、TIのDSPといえば携帯電話向けのイメージが強いが、TIは新テクノロジセット「DaVinci」により、潜在的には携帯電話市場を凌駕する広大な新市場へも乗り出しつつある。マルチフォーマットのデジタルビデオの符号化/復号に特化した「ビデオプロセッサ」とも呼ぶべき市場で、柔軟かつ高速処理が得意なDSPの特徴が生きる領域だ。
ビデオ処理はデジタル家電や車載情報機器はもちろん、最近では医療機器や産業機器でも要求されることが多く、幅広いアプリケーションが考えられる。特に情報家電などは、日本市場のウェイトが重くなりそうだ。実際、DaVinciの開発をリードするのは日本TIである。新規事業立ち上げを担うASP事業部 事業部長の神戸肇氏は、「TIの使命はDSP市場を広げること。OMAPが携帯電話のアプリケーションプラットフォームとなったように、DaVinciでビデオ処理向けのプラットフォームを提供してゆく」と話す。
2005年秋にDaVinciのコンセプトを発表したTIは、順次デバイスのラインアップを拡充してきた。2006年から量産出荷を始めた第1弾製品「DM644xシリーズ」は、DSPコア(600MHz)とARM9のCPUコア(300MHz)、アクセラレータ、周辺機器などを組み合わせたSoCで、主に据え置き型の映像機器に向けたもの。
DSPコアは8命令同時実行が可能なVLIW(Very Long Instruction Word)アーキテクチャなので、4.8GHzのRISCプロセッサと同等のビデオ処理が可能になる。また、デジタルカメラやWebカメラに向けた「DM350」、テレビ電話や監視カメラなどに向け、CPUコアを除きDSP単独構成でコストを抑えた「DM643xシリーズ」もサンプル出荷中で、2007年中には量産化される。それに伴って、DaVinci向けの開発ツールやライブラリの提供も始まっている。
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