次世代ケータイ開発を一変させるソフト基盤とは?組み込み企業最前線 − アプリックス −(1/2 ページ)

世界が認め出したJava実行環境「JBlend」を擁するアプリックスが、今度は携帯電話向けソフトウェアの開発を根本から変えるミドルウェアフレームワークの開発に乗り出した。その中身とインパクトとは。

» 2006年03月28日 00時00分 公開
[石田 己津人,@IT MONOist]

 アプリックスの組み込み向けJava実行環境「JBlend」が急成長している。2005年末の時点で搭載機器の累計出荷台数は1億7000万台に達し、2006年は単年で前年比30%増の1億台の出荷を見込む。搭載機器のほとんどは“Java携帯”である。

 端末メーカー大手、米モトローラなど既存顧客へのライセンス供与が好調なのに加え、NTTドコモが2005年秋に発売した「902iシリーズ」はJBlendを全面採用(注)。端末メーカーとしてモトローラに次ぐ世界3位のシェアを持つ韓国サムスン電子も2005年夏から採用しており、2006年に入って搭載が本格化している。


※注
従来は端末メーカーが独自にJava実行環境を選んでいた。

 携帯電話市場は2005年、実売ベースで8億1700万台(米ガートナー調べ)だが、アプリックスによれば、そのうち4億台を占めるJava携帯の約20%がJBlendを搭載するという。50%ほどを占めるメーカー内製品を除くと、トップシェアである。そしてさまざまな条件を考えると、その優位性は今後も揺らぐどころか、さらに高まりそうな気配である。

グラフ 出荷台数が一気に伸びた2004年第4四半期には、JBlendを搭載したモトローラ「RAZRシリーズ」が世界的なヒットを収めている グラフ 出荷台数が一気に伸びた2004年第4四半期には、JBlendを搭載したモトローラ「RAZRシリーズ」が世界的なヒットを収めている
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買収で中国市場へ橋頭堡築

アプリックス CFO兼コーポレートコミュニケーション室室長 山科拓氏 アプリックス CFO兼コーポレートコミュニケーション室室長 山科拓氏

 リッチなアプリケーションを求める携帯電話にあって、Java携帯は順調に伸びてゆくだろう。特に携帯電話の世界最大市場となった中国は、いまJava携帯の比率が1〜2割とノビしろが大きい。アプリックスは2004年、台湾、中国においてJava実行環境でトップシェアを持つ台湾iaSolutionを買収。レノボやBenQモバイル(BenQと独シーメンスの携帯電話事業が統合して誕生)など地場メーカーとの関係を構築した。もちろん、JBlendを採用するモトローラやサムスンなどは中国市場でも強い。

 そしてCPUやOSの流れを見ても分かるとおり、Java実行環境も内製品は徐々に汎用品に置き換わってゆくと見られる。端末メーカーも開発期間やコストの厳しい制約条件の下では内製にこだわっていられず、実績のある汎用品を使って開発資源を別に振り向けたい。サムソンがJBlend採用に踏み切ったのも、こうした理由からだろう。

 CFO兼コーポレートコミュニケーション室室長の山科拓氏は、次のように話す。「JBlendの発売は1997年。それ以来、改良を重ねてきたので性能には自信がある。コストは競合他社と比べて安いわけではないが、Javaのエクステンション(拡張機能)をモジュール化していち早く提供したり、キャリアの独自プロファイルにも一通り対応しているなど、Javaへの対応力からも十分に競争力があると自負している」。

 組み込み向けJava(いわゆる携帯Java)「J2ME/CLDC」は、実行環境のAPI仕様(プロファイル)として「MIDP」を定義しているが、それだけでは機能が足りない。そのため、携帯電話キャリアが独自プロファイルを策定しているケースがある(注)。JBlendはこれらに対応している点が強みになる。さらに、アプリックスは近い将来を見据えた戦略も着々と進めている。

※注
NTTドコモの「DoJa」、英ボーダフォンの「VSCL」など。



情報家電並みケータイを実現

 多機能化の一途をたどる携帯電話では、もっとリッチなアプリケーションが動く環境が求められている。今後は携帯電話向けCPUもパワーが段違いに上がり、それに合わせてキャリアやコンテンツプロバイダのサービスが高度化してくることが予想される。そこで次世代の携帯Javaを探る動きがある。NTTドコモと米サン・マイクロシステムズが共同で進めている「*プロジェクト」(スタープロジェクト)もその一環で、アプリックスもメンバーに加わっている。

 次世代の携帯Javaとして期待されているのが、J2MEの実行環境仕様を「CLDC」から「CDC」へ引き上げること。CLDCはハードウェアの制約が厳しい携帯電話などを対象とするのに対して、比較的に緩いカーナビなど情報家電向けがCDCという位置付けだ。つまり、情報家電並みのJava実行環境を携帯電話へ載せることになる。

携帯向けJBlendのアーキテクチャ。次世代携帯電話に向け、将来は実行環境仕様が現行のCLDCからより高性能なCDCへシフトしそうだ 携帯向けJBlendのアーキテクチャ。次世代携帯電話に向け、将来は実行環境仕様が現行のCLDCからより高性能なCDCへシフトしそうだ
JVMライブラリ コンパイル済みのリンク可能なライブラリとして提供。また、JVMライブラリにはプロファイルやJSRで指定されているオプショナルパッケージ、エクステンションなどを追加可能(HotSpotテクノロジ対応JVMライブラリの提供も可能)
アプリケーション 
管理ソフトウェア
AMA(Application Management Software)またはJAM(Java Application Manager)とも呼ばれる。Javaアプリケーションのインストール/削除、実行を管理するためのプログラム。機器メーカーが自由に作成できる(アプリックスからの提供も可能)
機器メーカー 
実装部
アプリックスが規定するインターフェイスに従い、プラットフォームに合わせて機器メーカーがプログラミングする部分(アプリックスからの提供も可能)
表 

 テクノロジが大きく変わると、既得権を持つものにとって逆風となる場合もあるが、アプリックスは相当な自信を持っている。「われわれは携帯電話に取り組む以前、情報家電にCDCベースのJava実行環境を実装し、モノを動かした経験がある。この経験があるJavaベンダは世界でもほとんどいないだろう」(山科氏)。実際、JBlendは1999年に登場したソニー「MD DISCMAN」や三洋電機「デジタルフォトアルバム」などに採用されている。

 もう1つ見逃せないのは、NTTドコモとの強固な関係だろう。ドコモは2005年11月、アプリックスに対して130億円を出資、議決権の約15%を保有する筆頭株主となった。高度な携帯電話アプリケーションへのニーズが強い日本の地の利を生かせるNTTドコモは、次世代「携帯Java」の開発をリードできるポジションにいるが、同社からして、アプリックスは技術パートナとして欠かせない存在であることがうかがえる。


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