次世代ケータイ開発を一変させるソフト基盤とは?組み込み企業最前線 − アプリックス −(2/2 ページ)

» 2006年03月28日 00時00分 公開
[石田 己津人,@IT MONOist]
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AMFが実現するソフト部品の動的再構成

 ただ、次世代「携帯Java」に向けたJBlendの機能強化のためだけに130億円もの大金が投じられたわけではない。アプリックスとドコモは携帯電話のソフトウェア開発を根底から変えようとしている。そこにかかわってくるのが、構想が明らかになり出した「アプリックスミドルウェアフレームワーク(AMF:Aplix Middleware Framework)」である。

 AMFは、Java実行環境を含むミドルウェア層全域を対象としたフレームワークである。上位のブラウザなどから下位の基本ライブラリまで、必要なソフトウェア部品をそろえて組み立て玩具の代名詞「レゴ」のように部品の連結面(API)を統一(APIの種類を最小限に抑える)。それによって、部品同士を自由に組み合わせられるだけでなく(JBlendも置き換え可能な一部品でしかない)、動的再構成も可能にするという。


図2 ミドルウェア層全域を対象とするAMF。ソフトウェア部品のAPIを集約し、部品同士を統合・再構成しやすくする 図2 ミドルウェア層全域を対象とするAMF。ソフトウェア部品のAPIを集約し、部品同士を統合・再構成しやすくする

 山科氏は、「携帯電話のソフトウェア開発には何十億円も掛かるといわれるが、その多くは実装作業と検証作業に費やされていると考えられる。バラバラな部品を使っているため、統合や検証の作業が膨大になるからだ」と指摘する。

 AMFの開発計画では、2007年中に既存のソフトウェア部品を集め、APIを整理して“フレームワーク仕立て”にする。「住宅建築に置き換えると『リフォームのようなもの』」という。それから1年ほどかけ、新規部品で構成した本番のAMFを完成させる予定だ。「ツーバイフォー」の建材が一式そろうイメージである。そのとおりなら、現場で建材を逐一加工する「従来工法」に比べて生産性は確かに上がるだろう。

 そのような理想的なフレームワークは本当に実現するのだろうか。山科氏は「技術的には心配していない。JBlendでもレゴ的な発想を取り入れ、何社ものベンダが提供する多数の部品を組み合わせており、バグの切り分けなどノウハウも積んでいる。それより機器メーカーの関心が高く、デリバリが間に合うかどうか、気をもんでいる」と自信を見せる。

エンジニア力を切り売りしない

 一方、アプリックスは自社技術の適用分野も広げようとしている。その表れの1つとして、次世代光ディスク規格の1つ「Blu-ray Disc(ブルーレイディスク)」の規格策定団体に参加。ブルーレイ規格には、対話型操作を可能にするJava技術仕様「BD-J」が盛り込まれ、パッケージコンテンツとJavaアプリケーション(ネットワークゲームなど)の連動などが想定されている。そこに同社のビジネスチャンスがあるわけだ。また、「JBlend[nano]」と呼ぶ、マイコン向け組み込みプログラム実行環境を提供し始めている。同製品はOSなしでJavaプログラムを稼働させることができ、センサなど産業機器への適用が見込まれる。

 このようにビジネスの幅を広げようとしているアプリックスだが、連結ベースでエンジニアは160名ほどしかいない(全体で約240名)。山科氏は「労働力の切り売りとなる受託開発は手掛けない方針なので、人の数がそれほど必要ないこともあるが、自分たちが思い描いていた世界が実現しつつあり、エンジニアも生き生きしている」という。日本のソフトウェア会社で世界に通用する自社製品を持つところはそう多くない。しかも、ユビキタス社会の中核技術の1つとなるJavaを自社のコアコンピタンスとしており、エンジニアのやる気が高まるのも自然なことだろう。

 アプリックスの創業者であり、現在の代表取締役会長兼研究開発部長の郡山龍氏は、ソフトウェア産業に対する思い入れが人一倍強いことでも知られる。「組み込みソフトウェア業界も10兆円規模にならないと、1つの業界として認知されない。それには1000億円企業が何社もないと」と、社員に向かって力説しているという。

 確かに、組み込み機器の付加価値の多くはソフトウェアが担っている。現状では、組み込みソフトウェアの多くは機器メーカーが内製しているが、これから分業化が進めば、郡山氏が思い描く組み込みソフトウェア業界が確立されるかもしれない。アプリックス自体、連結売上高で50億円を超えたところだが、将来性を感じさせる企業だ。

関連リンク:
Blu-ray Disc Association

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