半導体メーカーだからできるSIソリューションを組み込み企業最前線 − NECエレクトロニクス −(1/2 ページ)

組み込み業界で“縁の下の力持ち”的な存在である半導体メーカー。NECエレクトロニクスは、その領域を超え、顧客へのトータルソリューションに力を入れる。「売り込むのはデバイスではない。それは後から付いてくる」。逆転の発想で取り組むソリューション事業とは?

» 2005年12月21日 00時00分 公開
[石田 己津人,@IT MONOist]

 NECエレクトロニクス(以下NECエレ)は、売上高で世界第8位の半導体メーカーであり、国内ではルネサステクノロジ、東芝に次ぐ第3位(ともに2004年実績、アイサプライ・ジャパン調査)。1999年にNEC本体の半導体事業からDRAM部門が切り離され(日立製作所と合弁でエルピーダメモリを設立)、残る半導体事業が2002年に本体から分社・独立したのがNECエレだ。

 半導体製品(デバイス)の設計・開発・製造を垂直統合で手掛けるIDM(Integrated Device Manufacturer)として、幅広いデバイスを手掛ける。先端のプロセス技術を有し、ASIC(特定用途向けIC)やフラッシュ混載マイコンなどのMCU(マイクロコントローラ)、液晶ドライバICといった分野を得意とする。また、デバイスをシステムLSI(SoC:System on Chip)やSiP(System in Package)に仕立て上げる実装技術で競争力を持つ。最近では、2007年秋の量産化を目指した55nm(ナノメートル)世代CMOS技術、2015年の実用化を目標とする次世代光配線技術を発表した。


デバイス単体で売れない時代

 半導体メーカーといえば、どれだけ大量にデバイスを売り、どれだけ先端のデバイスを作り出すかに注目が集まる。しかし、NECエレは分社化当時から、従来事業と一線を画す「デバイスSIソリューション」に取り組んでいる。デバイスを売るという発想ではなく、デバイスをどう使うかを顧客である機器メーカーに提案し、一緒になって考える“ソリューション提供”である。顧客の要求仕様に合わせて設計・開発するシステムLSIやSiPも一種のソリューションといえるが、デバイスSIソリューションは、それより一歩も二歩も顧客側に踏み込んだものだ。

NECエレクトロニクス 第三システム事業本部デバイスSI事業部グループマネジャー(SI営業推進グループ) 田尻 明氏 NECエレクトロニクス 第三システム事業本部デバイスSI事業部グループマネジャー(SI営業推進グループ) 田尻 明氏

 第三システム事業本部デバイスSI事業部グループマネジャー(SI営業推進グループ)の田尻明氏は、デバイスSIソリューションに取り組む背景を次のように説明する。

 「最近では、セットメーカーの技術者は忙しく、何種類ものセットを同時に開発する。しかも、携帯電話に見られるように機能が複合化し、既存のリソースでは対応できなくなっている。そのため、単に新しいデバイスを持っていくだけではダメで、それをどう活用するかというソリューションを一緒に持っていかないと、デバイスが売れない時代に入ってきた」。

 組み込み機器の機能が単純で、デバイスの中心がASICだった時代は、機器メーカーも仕様設計などでデバイス開発にかなり踏み込んでいたという。半導体メーカーは要求仕様に合わせ、短期間に開発して低コストで供給すればよかった。それが組み込み機器の多機能化に伴ってASICやMCU、メモリ、さまざまな機能ブロックを最適に統合する高度なシステムLSIがデバイスの主役となり、機器メーカーも手に負えなくなっているのが実態だろう。

 携帯電話でいえば、もともと音声通信が主体だったところに、データ通信やファイル管理、カメラの画像処理、メディアプレーヤーのAVストリームが加わり、最近ではソニー「FeliCa」のようなRFID(Radio Frequency-Identification:電波方式認識)タグの搭載も一般化し始めている。それに比例して、アプリケーション(サービス/コンテンツ)層の充実を迫られている。新製品の開発競争に追われる端末メーカーは、時間的にもリソース的にもデバイス層の設計まで手が回らない。一方で、デバイスからアプリケーションまで一気通貫したトータル開発でなければ、先端の組み込み機器は開発できない。NECエレのデバイスSIソリューションは、こうした機器メーカーのジレンマを解消するものといえる。

技術者の7割がセットメーカー出身

 田尻氏は「われわれはサービスの対象を『部品(デバイス)以上、装置(機器)未満』と呼んでいる。顧客の商品企画から量産製造までの各プロセスに応じたサービスメニューを提供している。これはほかの半導体メーカーにはないもの」と自信を見せる。

 デバイスSIソリューションのサービスフローの概要を図1に示す。

図1 デバイスSIのサービスフロー 図1 デバイスSIのサービスフロー

 例えば、最上流では「商品企画支援」により、顧客の商品企画に参画して「どのようなデバイスを使えば、どのような機能が実現し、どれぐらいの性能が出るのか」といったアドバイスを行う。デバイスの設計・開発・製造だけでなく、顧客から要請があれば、デバイス層を超えて機器やソフトウェアの設計・開発まで踏み込むケースもあるという。また、最下流の「ファンダリ提供」「量産立上支援」では、量産製造に向けEMS(電子機器製造サービス)事業者を紹介したり、実際にそのEMS事業者での量産立ち上げまで責任を持って支援したりする。半導体メーカーの領域を超えたサービスだ。

 こうしたことが可能なのも、デバイスSI事業部が抱える約110名の技術者の何と7割が“半導体部門以外”の出身だからだ。彼らは、NECグループで携帯電話やサーバ、交換機、ハードディスクなど組み込み機器の開発に携わっていた経験を持っているのである。「やはりセットを開発した経験がある技術者でないと、深いところで顧客側と話が通じず、ニーズをつかめない。セット側の技術者とデバイス側の技術者がチームを組むことで、顧客に合ったソリューションを提供できる」(田尻氏)という。加えて、ソフトウェア開発や量産製造では、NECグループの豊富なリソースも使える強みも見逃せない。

 実際、デバイスSIソリューションの適用事例としては、次のようなものがある。アミューズメント機器向け表示装置を開発している機器メーカーA社が、高速なDDR(Double Data Rate)メモリを使っていたため発熱と伝送路の点から実装設計に課題を抱えていた。そこでNECエレが基板部分からメモリモジュールを開発、同じNECのグループ会社がモジュールを量産してA社に供給した。別のケースでは、アーケードゲーム機の精算管理に悩んでいたB社に向け、各ゲーム機に組み込む課金ユニットを開発。ここでもグループ会社と協業し、B社に設置したポーリング用サーバがネットワークを介して課金ユニットからデータを吸い上げるシステムを構築した。まさしく、デバイスが前面に出ない課題解決型ビジネスといえる。

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