組み込み開発を下支えするICE。そのトップメーカーであるソフィアシステムズは、その強固な基盤から事業を広げようとしている。
組み込み業界において、設立が1975年のソフィアシステムズ(以下ソフィア)は、“老舗企業”の部類に入るだろう。設立当初は組み込み機器の受託を手掛けていたが、1980年に自社開発のICE(In-Circuit Emulator)を製品化、開発ツールへと特化してゆく。インテルが1973年に8bit MPU「8080」を発売し、“マイコン時代”の幕が開いたことを考えれば、時代とともに歩んできた企業の1つといえる。
その歴史で積み重ねてきた実績は、「ICEといえばソフィア」といわしめる。「EJ-Extremeシリーズ」「HyperSTACシリーズ」などのフルICE(注1)、さらに特定用途向けカスタムICE、ICEの主流となりつつあるJTAG‐ICE(注2)の「EJ-Debugシリーズ」。そして、これらICE製品の使い勝手を高めるデバッグモニタ「WATCHPOINT」。組み込み開発を下支えするデバッグ環境を総合的に提供しているのだ。
ただ、ICEをめぐるマーケット環境は従来と大きく変わっているという。代表取締役社長の樫平扶氏は次のように語る。「10年ほど前まで、ICEのユーザーは産業系がメインだった。交換機やロボット、NC(数値制御)装置など。ところが携帯電話が普及し始めてから、コンシューマ系のユーザーがどんどん増えている。産業系は製品サイクルが長く、最適な開発環境を自分たちで作り上げるので、われわれはツールだけを提供すればよかった。だが、製品サイクルが短いコンシューマ系は、OSから開発環境まで外部から総合的に調達する。ツールだけを持っていっても、難しくなっている」。
半導体ベンダのユーザー囲い込みもソフィアのビジネスに影響を与えている。半導体ベンダにとっても、チップだけではユーザーとの取引が難しくなっているのは同じ。そのため、ユーザーの開発を支援するソリューションとして、自社製チップと連携するICEなど開発ツールは、信頼性のあるツールベンダとの協業に力を入れているのだ。
関連リンク: | |
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⇒ | ソフィアシシテムズ |
⇒ | EJ-Extreme Long Time Trace |
それでもソフィアには専業メーカーとしての強みがある。それを樫平氏は「オンリーワン戦略」と称する。「マイコンの市場投入と同時にそれをサポートするICEが必要なため、われわれはマイコンの開発情報を半導体ベンダからいち早く入手できる。国内に限らずワールドワイドで見ても、われわれのICEでしかサポートしていない特殊用途のマイコンも多い」。
オンリーワン戦略の対象となるのは、例えば、「XScale」のアーキテクチャ名で知られるマーベル・テクノロジー・グループの携帯機器向け通信・アプリケーションプロセッサ「PXA3xx/PXA27x」(注)、東芝「MeP(Media embedded Processor)」やテンシリカ「Xtensa」といったユーザーカスタマイズ可能なコンフィギュラブルプロセッサなどがある。それぞれ用途を絞り込んだプロセッサだが、「確実にニーズは増えている」という。こうした半導体メーカーとしては、周辺については実績のあるサードパーティと組むことでよりプロセッサの開発に注力できるというメリットがある。
半導体ベンダがソフィアを高く買っているのは、話題のマルチコアプロセッサ「Cell」向けのJTAG‐ICEを業界に先駆け発表していることからもうかがえる。Cellの共同開発企業の1社である東芝の技術支援の下、2006年春ごろから開発を進めていた。同年10月に開催された「CEATEC JAPAN 2006」で試作品を披露しており、2007年早々にリリースする予定である。Cellは2種類のプロセッサコア(注)を持つことで知られるが、新製品はその両方に対応し、マルチスレッドのデバッグが可能となる見込みだ。
JTAG-ICEならば、内蔵するFPGAの回路設計により複数のプロセッサに対応できる。そのためハードウェアの共通利用は可能だが、プロセッサごとにデバッガを作り起こしたり、何種類ものOSに対応する必要がある。特にOSサポートが必須のLinuxは、バージョン間の互換性が低いため作業が煩雑である。それでも樫平氏は次のように話す。「汎用品向けで複数のベンダが競合するより、半導体ベンダとの協業でオンリーワン戦略を進めてゆくことの方が重要である。幸い、ソフトウェアを手掛けるシステムハウスは多いが、ハードウェアまで手掛けられるところは少なくなっている。われわれは、半導体ベンダとユーザーを橋渡しするブリッジのような存在になる」。
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