アクテル、“真の”Flash FPGAでPLD市場を広げる組み込み企業最前線 − アクテル −(1/2 ページ)

Flash FPGAを手掛ける米アクテルがPLD業界で日増しに存在感を強めている。“True Flash”技術により実現したデバイスが市場のニーズとマッチしだしたのだ。PLD業界で長らく続く“2強時代”に風穴を開けるか。

» 2010年01月14日 00時00分 公開
[石田 己津人,@IT MONOist]

成長性ではPLD業界でトップ

 米ザイリンクス、米アルテラの2強が寡占するPLD市場にあって最近、3番手をうかがう米アクテルの健闘が目立つ。同社 上級副社長 ファレス・ムバラック氏は「当社は2007、8年、どのPLDベンダよりも成長率が高く、市場が冷え込んだ2009年も落ち込みは一番小さい」と自信を見せる。実際、同社はPLDベンダ大手5社の中で2007年は唯一の増収、2008年は唯一の2けた増収を達成。2009年も減収ながら市場シェアを伸ばしている。

 アクテルは、市場で主流のSRAM方式ではなく、アンチヒューズ/Flash方式のFPGAを専門に手掛ける。いい換えると、「上位2社とほとんど競合しない領域で、新しい市場を広げている」(ムバラック氏)のだ。

 SRAM方式のFPGAは、外付けの不揮発メモリに記録した回路情報を電源投入時に内部のSRAM素子へ転送して動作。SRAMは揮発性なので回路情報を何度でも書き換えられ、製造にも最先端のCMOSプロセスが適用できる。その半面、回路規模が大きくなる、LAPU(Live At Power-UP:電源投入後の即動作)が不可能、放射線によるエラーが起こりやすい、回路情報を盗み見られる危険性を持つ、などのデメリットがあるといわれる。これに対して、書き込み時に回路を固定的に接続するアンチヒューズ方式、記録素子に不揮発性のFlashメモリを用いるFlash方式は、微細化こそ難しいが(SRAM方式はすでに45nmプロセスに突入しているが、アクテル製品は130nmプロセス)、SRAM方式が持つデメリットはほぼ見られない。特にFlash方式なら書き換えも可能である。

大きな伸びしろを秘めたFlash FPGA

 アクテルは1985年の設立より、航空、宇宙、防衛といった、コストや性能よりも“信頼性”を重視するセーフティクリティカル分野において、アンチヒューズFPGAで実績を築いてきた。例えば、「宇宙機器で採用されるFPGAの8割が当社のRTシリーズだ」(ムバラック氏)という。そして、2000年のゲートフィールド買収により取り込んだFlash FPGAも、いまでは売上高構成比で3割近くを占めるまでに育っており、まだまだ大きな伸びしろも秘めている。

イノベーションの継続 図1 イノベーションの継続。アクテルの製品史。1985年の設立以来、アンチヒューズFPGAで実績を築き、2000年のゲートフィールド買収を機にFlash FPGA分野へ参入

アクテル 上級副社長 ファレス・ムバラック氏 画像1 アクテル 上級副社長 ファレス・ムバラック氏

 アクテルのFlash FPGAには、低消費電力FPGA「ProASIC3」と超低消費電力FPGA「IGLOO」に、“業界唯一”をうたうミックスドシグナルFPGA「Fusion」を加えた3シリーズがある。それぞれの内訳を見ると、ProASIC3には標準版(1.5〜300万ゲート)と低消費電力版(25〜300万ゲート)、IGLOOには標準版(1.5〜300万ゲート)とI/O拡張版(3〜12.5万ゲート)があり、2008年末には“ナノ級”の低消費電力を実現した「ProASIC3/IGLOO nano」(1〜25万ゲート)も登場した。Fusionは9/25/60/150万ゲートの4品目からなる。

 3シリーズに共通する特徴は、“True Flash”である。Flash FPGAと呼ばれるものには、FPGA内部のFlashに記録した回路情報を電源投入時にSRAMへ転送する、つまり、外付け不揮発メモリの代わりFlashを用いるタイプと、アクテル製品のようにSRAMに代わりFlashを直接の記憶素子として用いるタイプがある。ムバラック氏は「True Flashは、SRAM+Flash混載型に比べて消費電力、サイズ、信頼性の面で優位になる」と主張する。

 まず、消費電力の面だが、100万ゲート品でのスタティック電力は、ProASIC3の標準版で8mW、低消費電力版で1mW、IGLOOの標準版で0.05mW。競合他社のSRAM方式・低コストFPGAと比べると、それぞれ5分の1以下、40分の1以下、800分の1以下となる。さらに、IGLOO nanoに至っては1万ゲート品でわずか2μW。これもSRAM+Flash混載型FPGAの15〜25分の1という水準だ。SRAMは複数トランジスタで1つのセルを構成するため1セル当たりのリーク電流が大きくなるのに対し、Flashは1つのフローティングゲートで1つのセルを構成するためリーク電流が小さい。この構造上の違いが出ている。

Actel’s Low-Power Advantage 図2 Actel’s Low-Power Advantage。“True Flash”技術を用いる「IGLOO nano」と競合他社のSRAM+Flash混載製品でスタティック電力を比較。IGLOO nanoの2μWは他社の15〜25分の1となる

 次に、同じシングルチップでもTrue Flashがサイズ面で優位なのは当然だろう。実際、IGLOOの3万ゲート品で4×4mm(GPIO端子66)、IGLOO nanoの1万ゲート品で“業界最小”をうたう3×3mm(同23)のBGAパッケージが提供される。加えて、セキュリティ、放射線耐性、LAPUの面でも、True FlashはSRAM+Flash混載型に比べて構造的には優位だろう。「SRAMベースで技術資産を築いている競合他社は、新規投資を要するTrue Flashへ容易に踏み込めない」(ムバラック氏)と、いまのところTrue Flashはアクテルの競争力源である。


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