計測・制御分野の雄、米ナショナルインスツルメンツが組み込み分野で存在感を高めている。グラフィカル言語「LabVIEW」を中心とした同社のソリューションは、組み込み分野のプログラム設計や機能検証に大きな影響を与え始めている。
ナショナルインスツルメンツ(以下、NI)は、PCベースの計測・制御ソリューションを手掛ける業界最大手ベンダである。設立は1976年で三十余年の歴史を持ち、世界40カ国内以上にオフィスを展開、4100人以上の従業員を抱える。主力製品は、グラフィカル言語ベースのアプリケーション開発環境「LabVIEW」のほか、PXI/PXI Express(注)インターフェイスのモジュール式計測器やI/Oボード、信号調節器といったハードウェア製品である。LabVIEWで設計したプログラムと機器を組み合わせると、PCベースの計測・制御システムを柔軟に構築できる。
そのNIが“組み込み分野へ急アプローチ”している。その流れについて、日本ナショナルインスツルメンツでマーケティング部長を務める許斐俊充氏はこう説明する。「われわれの製品は従来、信号をI/O処理する計測・制御で使われてきたが、高機能化したLabVIEWでは、単なるI/O処理だけでなく、高度なロジックを組めるようになり、設計ツールやシミュレータとしても使われ出してきた。しかも、プログラムはPCプラットフォームだけでなく、組み込みプロセッサ上へも展開できるため、組み込み分野での採用が増えている」。
LabVIEWには、「Real-Timeモジュール」「FPGAモジュール」「組込アプリケーション用モジュール」などの機能拡張ツールが用意されており、LabVIEWで設計(データフローを記述)したプログラムを32bitsプロセッサを用いた組み込みプラットフォームへ専用ランタイムとともに実装可能だ。主にプロトタイピングやシステムシミュレーションなど機能検証用途で使われる。特に、NIの計測・制御ハードウェアへ組み込めば、実機の実センサと連携した機能検証が行える。つまり、HILS(注)環境を手軽に構築できるのだ。
HILSは自動車のECU(電子制御ユニット)開発でもよく使われるが、NI製品も国内外の関連メーカーに採用されているようだ。例えば、独BMWがNI製品を採用して実践するHILSは、LabVIEWで12気筒水素エンジンの動作モデル(プログラム)を設計し、FPGA搭載I/Oボード『PXI-7831R』へ実装。これをCAN(注)を介してECU(実機)を接続、動作検証するというもの。エンジンの実機を用いる必要がないのでECU開発の効率が高まる。このように“リアルとシミュレーションの世界をつなぐ”のがNI製品の真骨頂だろう。
最近では、ECUそのものをモデルベース開発する動きもある。米Drivvenは、NIの汎用コントローラ「CompactRIO」をベースとした「ECUシミュレータ」を提供している。LabVIEWでプログラムしたECU動作モデルをCompactRIOに実装、それで実際にエンジンの点火タイミングや燃料噴射量を制御し、機能検証を行う。CompactRIOはプログラマブルなFPGAをプロセッサに使っているため、多種類の動作モデルを試せる。また、FPGAの回路設計では通常、一般のECU設計者にとって敷居が高いハードウェア記述言語のVHDLを用いるが、LabVIEWの場合、GUI環境で設計した動作モデルからFPGA回路を再構成する組み込みコードが自動生成されるので、「FPGA/VHDLの専門知識がない技術者がECUのアルゴリズムやモデルの開発に専念できるようになる」という。
さらに、LabVIEWで設計したモデルは、機能検証用途だけでなく、そのまま最終プログラムとして製品へ実装することも可能だ。例えば、米Boston Engineeringのようなケースがある。同社は、キオスク端末に内蔵する紙送りユニットの制御モデルをLabVIEWで設計し、FPGAを搭載するCompactRIO上で機能検証を行い、テスト販売では、そのCompactRIOを完成品へコントローラとして搭載している。さらに、量産段階では、コントローラを汎用DSP「Blackfin」(米アナログ・デバイセズ製)を搭載したカスタムボードに切り替えたが、LabVIEWにはBlackfinに対応した機能拡張ツールが用意されており、制御モデルをそのまま移植できたという。一般にFPGAは検証用として使い、量産モデルでは汎用のMPU/DSPへ切り替えるパターンが多いが、LabVIEWなら、1つの開発環境で設計したモデルを幅広い組み込みプラットフォームへコード実装(移植)でき、開発プロセス全体を効率化できそうだ。
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