CPUアーキテクチャ、IPコアのリーディング・カンパニーであるミップス・テクノロジーズは、主力のデジタル家電分野のみならず、将来のモバイル/通信機器分野、そして今後登場するであろう新たなアプリケーションを見据えた新戦略を打ち出す。その主軸を担うのがオープンソースのソフトウェア・プラットフォーム「Android」だ。
――「ここ2、3年、セットメーカーがIPコアのライセンスを取得し始めている」。インタビューの冒頭、ミップス・テクノロジーズ 日本支社長 中上 一史氏は同社のライセンシの変化を語った。
従来、プロセッサ・コアIP(Intellectual Property:知的所有権)は、半導体製造の高度な技術・専門知識を持っていないと使いこなすことが難しいもので、自ら製造工場を持つ半導体メーカーがIPコアベンダの主なビジネス相手だった。
しかし、シノプシスやケイデンス・デザイン・システムズ、メンター・グラフィックスなどが提供するEDA(Electronic Design Automation)ツールの登場や、アルテラ、ザイリンクスが提供するFPGAが高機能・多機能化したことにより、IPは半導体メーカーだけのものではなくなったという。「実際、こうした流れはワールドワイドで起こっており、半導体メーカーのみならず、多くのセットメーカーが当社をはじめとするIPコアベンダのライセンシとして名を連ねている」(中上氏)。
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――「MIPSアーキテクチャは一体何向けのアーキテクチャなのか?」。前述のような市場トレンドの変化の中で、こうした質問をよく受けるようになったと中上氏はいう。
真っ先に思い付くのは、デジタルTVやSTB(Set-Top Box)、Blu-ray Discレコーダといったデジタル家電分野への採用だが、「ミップスのアーキテクチャは、特に何向けという規定がされているわけではない」(中上氏)。実際、前述したデジタル家電の6割ほどでMIPSアーキテクチャが採用されているが、これら以外にもデジタルカメラ、ポータブル・ゲーム機、ネットブック、MID(Mobile Internet Device)端末、Wi-Fi/WiMAX対応のアクセスポイント、VoIP(Voice over Internet Protocol)端末など、非常に幅広いアプリケーションで利用されているという(図1)。
では、携帯電話やスマートフォンといったモバイル/通信機器分野ではどうか? こちらは現時点でいうとARM陣営に軍配が上がる。こうした現状について、中上氏は「確かに、いまはやりのスマートフォンや最新の携帯電話を見ても、ほとんどがARMといっていい。しかし、われわれもこうした状況を黙って見過ごしているわけではない」と、将来のモバイル/通信機器分野、そして今後登場するであろう新たなアプリケーションを見据えた戦略を示唆した。
その戦略の一端が、先日スペイン・バルセロナで開催された「Mobile World Congress」で見て取れる。以下、同社が発表したリリースを基に紹介しよう。
1つは、携帯機器向けMIPS-Basedアプリケーション・プロセッサ開発への取り組みだ。同社のライセンシの1社で、モバイル市場向けにSoC(System on Chip)ソリューションを開発するファブレス企業Mavrix Technologyと共同で、同社MIPS32 CPUコアをベースに、Android搭載のポータブルメディアプレーヤ、MID、携帯電話向けのSoCデザインを開発するという計画を打ち出している。
さらに、同社は携帯機器向けソフトウェア・ソリューションのプロバイダであるIntrinsyc Softwareと協力し、MIPSアーキテクチャに3.5G機能を移植することも発表している。両社は世界中のMIPSライセンシが、より迅速に携帯SoCを開発できるように、MIPSアーキテクチャにIntrinsycのRapidRILソフトウェアを移植する方針を固めた。Mobile World Congressの会場では、MIPS-BasedのAndroidプラットフォームで、オーディオ、ビデオ再生機能を使用する3.5G音声通話のデモンストレーションが公開されたそうだ。
そのほか、4G Mobile WiMAXチップのプロバイダであるBeceemが、次世代ワイヤレス・ネットワーク製品向けにMIPS32 4KEcシンセサイザブル・プロセッサコアのライセンスを取得したり、MIPSアーキテクチャ上でLTE(Long Term Evolution)を実現するために、4G向けにMobile WiMAXやLTE組み込みソフトウェア・ソリューションを提供しているSySDSoftとの協業を発表したりと、同社が形成するエコシステムを活用し、次世代モバイル/通信機器市場を見据えたさまざまな布石を打ち始めている。
「当社は、携帯電話やスマートフォン、通信機器だけではなく、今後市場に出てくるであろうさまざまなアプリケーションについて積極的にフォーカスしていく」(中上氏)と、ARM陣営に対し攻勢を仕掛ける構えだ。
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