組み込みボードベンダのアットマークテクノは、自由度の高いプラットフォーム製品でユーザーのもの作りを“早く安く簡単”にしようとしている。プロセッサ搭載FPGAとLinuxの組み合わせこそ最適解として、認知活動に力を入れる。
アットマークテクノは1997年末、札幌で産声を上げた。代表取締役の実吉智裕氏が1人から始めたベンチャーである。
同じ札幌でシステム系ベンチャーの雄として知られるビー・ユー・ジー(BUG)に新卒で入社した実吉氏は、一世を風靡したNTT-ME(当時)のISDNルータ「MN128-SOHOシリーズ」のハード開発を3年にわたり担当していたが、「もともと起業家指向。システムLSIに興味があり、その方面の技術を生かしたビジネスを興したかった」と会社を飛び出した。折しも、エンジェル税制が導入された年、起業は盛んだった。
最初に思い描いていた事業は、テキサス・インスツルメンツ(TI)製DSP向けオーディオミドルウェアの開発である。「MP3プレーヤが出始めたころで、情報家電の世界が広がり、オーディオとネットワークの融合が始まると考えていた」(実吉氏)という。いまから振り返えれば、先読みは間違っていなかった。公的な事業融資や補助金も受けた。
ただ、ビジネスには結び付かなかった。実吉氏によれば、当時のTIはサードパーティ製品の活用に熱心ではなく、それよりもユーザーへのサードパーティサポートを求めていた。DSPプログラミングができるエンジニアが少なかったからだ。製品収入がほとんどなく、受託開発でしのいだ。それでも、受託開発(下請け)にのめり込まなかったから、現在の製品ベンダとしてのアットマークテクノがある。
ビジネスの転機は、2002年春に汎用CPUボード「Armadillo」を発売したことだった。Armadilloは、CPUがARMコアのシーラス・ロジック製プロセッサでOSがLinuxという、当時としては斬新な組み合わせだった。初代製品はCPUコアクロックが74MHz、メモリがSDRAM 32Mbytesで、10BASE-Tのイーサネットを備えていた。拡張バスがPC/104規格という仕様からも分かるとおり、主に産業用ボードコンピュータを狙っていた。
「次はARMの時代という確信があった。当時、携帯電話などでARMを組み込みコアとして使っている例はあったが、ARM搭載の市販CPUボードはなかった。また、(産業機器分野でも)汎用OSの時代が来るという見通しがあり、思い切ってLinuxを採用した」。
最初、Armadilloへの市場の反応は必ずしも芳しくなかった。産業用ボードコンピュータのCPUコアとしては、ルネサステクノロジのSuperHなどが幅を利かせており、「なぜARMなのか」という反応が多かったという。加えて、製品のライフサイクルが長い産業機器の特性から、「長期供給できるのか」と疑念を抱かれることも。当時のアットマークテクノは創業から5年足らずであり、「できます」と答えたところで説得力はなかった。
幸運だったのは、産業機器分野に強い専門商社の梅澤無線電機がArmadilloの開発・販売をバックアップしてくれたこと。同社社長の梅沢英行氏が実吉氏と同じ北海道出身ということもあり、目を掛けてくれたようだ(注)。
産業機器分野でもARMとLinuxの有用性について認知が進むにつれ、Armadilloは徐々に市場へ浸透していった。特に計測器、それも汎用機器ではなく特殊機器で受けた。例えば、地震による建物のひずみをネットワーク経由で遠隔検知するといったものである。特殊機器は数量こそ期待できないが、LAN対応で拡張性が高いArmadilloの特徴を生かせる用途だろう。
Armadilloは、社員が20名近くまで増えたアットマークテクノの屋台骨。需要は安定して増えているようだ。2006年春に発売した新製品「Armadillo-200シリーズ」は名刺ほどの大きさでCPUコアクロック200MHz(ARM920T)のパワーを持ち、イーサネットも10BASE-T/100BASE-TXに対応する。
LinuxのみならずWindows CE、NetBSD、ITRONに対応した「210」、イーサネットポートを2系統備える「230」、USB接続、VGA出力が可能な「240」と3モデルのラインアップを持ち、さらに幅広い用途に対応できるようになった。これまでの実績がものをいい、「最初から量産オーダーが来ている」という。
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