IoT(モノのインターネット)市場が拡大する中で、エッジ側の機器制御で重要な役割を果たすことが期待されているリアルタイムOS(RTOS)について解説する本連載。第58回は、国産RTOSとして広く採用された「ITRON」の礎となった「TRON」を紹介する。
本連載では海外のリアルタイムOS(RTOS)を中心にいろいろご紹介してきたが、日本においてRTOSを語るには「TRON」の話を避けて通るわけにはいかないだろう。そこで、今回と次回に分けてTRONについてご紹介したいと思う。
TRONという言葉を耳にしたことのある読者はかなり多いだろうし、筆者と同年代(還暦突破中)のコンピュータエンジニアならほぼリアルタイムで体験してこられたのではないかと思う。TRONは“The Real-time Operating system Nucleus”の略だが、1984年に当時東京大学 理学部 情報科学科 助手(1996年から教授、2017年に東京大学を退職、現在は東洋大学 機構長)の坂村健博士(以下、坂村氏)が提唱したものである。
実際には、TRONプロジェクトという形で、単にOSのみならずアプリケーションのユーザーインタフェースまで含んだかなり壮大なものであった。坂村氏が1987年に出した「The Objectives of the TRON Project」(図1)という論文によれば、まずHFDS(Highly Functionally Distributed System:高機能分散システム)という理想があり、これを実現するための方法としてITRON/BTRON/CTRON/MTRONという4種類の環境(OSとフレームワーク)に加え、TRON仕様のCPUを構築することまで視野に入れていた。このTRONプロジェクトの推進のため、1986年にはTRON協議会が設立。1988年にはトロン協会に改称される。
このトロン協会が中心になって、以下の4つのTRON OSを含めた6つのプロジェクトが立ち上げられ、それぞれの開発が始められることになる。
当初CTRONはなく、ITRON/BTRON/MTRONの3つがOSとしてラインアップされた時点では、頭文字を取るとIBMになるとやゆされ、CTRONが加わったことで頭文字がICBM(大陸間弾道ミサイル)になると「より物騒なものになった」などとも言われたりしたが、これは余談である。
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