急速に進化するAI技術との融合により変わりつつあるスーパーコンピュータの現在地を、大学などの公的機関を中心とした最先端のシステムから探る本連載。第6回は、2025年1月に一般提供が始まった産総研の「ABCI 3.0」プロジェクトを推進した高野了成氏のインタビューをお届けする。
前回は、2025年1月20日に一般提供を開始した産業技術総合研究所(産総研)の「ABCI 3.0」の概要や民間利用について紹介した。
後編に当たる今回は、2016年にABCIの検討が始まった当初からシステム設計やデータセンター構築に関わってきた、産総研 インテリジェントプラットフォーム研究部門 総括研究主幹 兼 量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センターの高野了成氏のインタビューをお届けする。(インタビューは2025年2月13日に実施)
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―― 産総研のGPUスパコンの最新システム「ABCI 3.0」が2025年1月20日に一般提供を開始しました。まず、ABCIというシステムを開発したいきさつについて教えてください。
高野氏 ABCIのプロジェクトを始めたのは2016年頃です。前年の2015年に、ResNetという画像識別モデルで人間を超えるような性能が出たり、Google DeepMindが開発したAlphaGoがプロ棋士に勝利したり、ディープラーニングが立ち上がりつつあった一方で、日本国内には研究開発に使えるようなシステムがあまりなかったんですね。産総研は20年以上前からスパコンの研究を綿々と続けてきた歴史を持っているので、その技術を使ってAI(人工知能)研究のインフラを作ろうと始めたプロジェクトがABCIでした。
もともとABCIの名前は、アルゴリズム(Algorithm)、ビッグデータ(Big data)、コンピューティング(Computing)、そしてインフラ(Infrastructure)に由来しています。そのあとコンセプトを固めていく過程で、培った技術を民間に橋渡ししていくための設備と位置付けて、AI(人工知能)をブリッジするクラウド(AI Bridging Cloud Infrastructure)という名前にしました。
―― 本連載で取り上げた東京工業大学(現東京科学大学)の「TSUBAME 4.0」や、東京大学と筑波大学が共同で構築した「Miyabi」は、AIの研究をメインに据えるのではなく、物理現象のシミュレーションなどの使い方をメインに、設計、運用されています。
高野氏 今後AIはどの産業においても基盤技術になりますので、基礎研究というよりも産業応用の研究開発を加速する意味で、AIに特化したインフラを作ろうというのがABCIでした。その点は大学のシステムとは違うところです。今でこそ世界中にAIスパコンやAIデータセンターを作ろうと話題になっていますが、AIに特化した実用的なシステムとしては世界初だったんじゃないかと思います。
―― 2018年8月に初代のABCI 1.0が稼働します。どのように設計したのですか。
高野氏 産総研が持っていた経験/ノウハウに加えて、東工大の皆さんにも協力してもらって、同大のGPUスパコン「TSUBAMEシリーズ」のノウハウをABCIに反映して進めました。そのために産総研は、東工大と2017年2月に「産総研・東工大 実社会ビッグデータ活用 オープンイノベーションラボラトリ」(RWBC-OIL)を東工大 大岡山キャンパス内に設立しています。
当時はアクセラレータとしてNVIDIA GPUが本命になりつつあったんですけど、例えば東京大学と筑波大学が2016年に構築した「Oakforest-PACS」ではメニーコアのインテルXeon Phiプロセッサーが採用されるなど、まだどうなるか分からないね、というような状況でした。いろいろなシステムを横にらみで見ながら、最終的にNVIDIA V100を4基搭載したサーバ1088台で構成するITベンダーの提案を採択し、2016年度第2次補正予算「人工知能に関するグローバル研究拠点整備事業」の一環として調達しました。
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