白物家電を人手で1個ずつ作る日立――国内工場でなぜ小寺信良が見たモノづくりの現場(4)(5/5 ページ)

» 2013年03月27日 10時10分 公開
[小寺信良,MONOist]
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震災による意識変化

 多賀事業所は、茨城県の海岸線から最も近い所で約200mに位置し、2011年の東日本大震災を含む震源地からそう遠くない。海は近いが、幸いにして標高が相当あったため、津波の被害はなかった。

 しかし震度6の激しい揺れにより4棟が倒壊し、面積にして4000m2の建物の解体を余儀なくされた。現在はそれを逆に好機と捉え、新たに9000m2の新建屋を増築している。太陽光発電システムといった新事業関連品は、この新しい建屋で生産されている。

 震災直後は、食物はおろか、電気、水、何もない状態を経験した。しかし他事業所からの支援もあり、およそ10日で復旧、生産を開始している。この、何にもない状態を経験したことから、無駄な電力は使わないという意識が従業員全員に芽生え、電力の25%削減を自然に実現したという。

 さらに、契約電力の見直しも進めた。従来は、契約電力を超えると罰則金の支払いが必要となるため、高めの電力で契約していた。これを契約電力の95%程度でギリギリに推移する程度まで落とした。

 白物家電の製造にかかる電力は、ほとんどが樹脂成形機のものである。成形機では樹脂を溶かしておかなければならないため、むやみに電源を切れない。そこで総電力をモニターし、ピーク電力を超えそうになると、総務部から各所に連絡し、まず空調設備から電源を切る。照明よりも空調の方が節電に効くからだ。この方法で、現在も電力を25%削減したままで操業を続けている。

 その一方で、事業所内の照明のLED化は、まだほとんど進んでいない。LEDライトの製造拠点として、まずは顧客に供給する方が先であると考えているのは分かる。しかし顧客側からすれば、LED照明の価格はまだ高価であり、損益分岐点が結構先であるにもかかわらず、節電に効果があるとしてLEDライトが宣伝されているという現状がある。

 使用する照明の量から考えれば、1カ所の巨大事業所をLEDに装換した方が圧倒的に節電には効果があり、さらには量産効果による価格下落も期待できる。まずはメーカーが率先して採用し、費用対効果の数値をはじき出すべきであろう。うちではまだ高いので替えられませんがお客さんは入れ替えてください、では消費者の理解は得られまい。


 今回、日立アプライアンスの多賀事業所内を見学して、他社であれば外注する部品も全て内製すること、これが徹底されていることを、あらためて認識した。同じ建屋内で作れないものは、同じ事業所内で他の製造課に発注するなど、極めて弾力性の高い運用を実現している。この辺りはなかなか他社で実践しようとしても、物理的に難しい部分であろう。

 震災以降のモノづくりとしては、産業分野でのエネルギーの効率化において、この方法論でどのようなメリットが発揮できるのか、正直まだ結果は出ていないように思える。古い工場であるが故に、昨今の工場から見ればまだ無駄が多い点もあるだろう。

 現在は、手順の最適化による製造時間短縮で、人件費の高い日本でモノづくりを続けるハンデをカバーしている状況だが、これぐらいの巨大な製造拠点が本格的なエネルギーの効率化を果たせば、産業界においてその影響は小さくないだろう。


筆者紹介

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小寺信良(こでら のぶよし)

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手掛けたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

Twitterアカウントは@Nob_Kodera

近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)




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