大量生産モデルでは日本の製造現場は中国やASEANに勝てない――。そんな通説に真っ向から挑んでいる太陽電池メーカーがある。ソーラーフロンティア宮崎第3工場(国富工場)だ。ロボット化と人手によるバランスを追求した新たな国内工場の姿を小寺信良がお伝えする。
もともと日本は電気製品がよく売れる国であり、国内需要も旺盛だ。だが三種の神器などと言われた昔とは違ってニーズの多様化が進んでいる。さらには購買が衝動化しており、在庫切れが致命的になるほどの即決市場となっている。従って国内の家電製品工場では、多品種少量生産に加え、フレキシブルな増産・減産体制が欠かせない状況だ。
その一方で、同じものを限りなく大量に作るという産業も存在する。大量生産モデルは東南アジアなど人件費の安いところに勝てないという通説があるが、ほとんど人件費が掛からない設備投資産業だとしたら、どうだろうか。しかも、製造装置を運用・維持するのに高い技術が必要だとしたら、勝負できないものなのだろうか。
日本でしかできないモノづくりで、大量生産モデルに挑む珍しい事例が、宮崎県国富町にある。太陽電池メーカーであるソーラーフロンティアの宮崎第3工場だ。
実は筆者の実家が宮崎県なので、夏休みで帰省した折に見学させていただけないかとお願いしてみたところ、快諾いただいた。今回は、世界でも類を見ない巨大太陽電池工場の中を拝見する。
テレビCMでご存じかもしれないが、ソーラーフロンティアは「CIS」というタイプの太陽電池を製造しているメーカーである。名前になじみがないので、小規模なベンチャーのように思われるかもしれないが、そうではない。以前は「昭和シェルソーラー」という名前であったことから分かるように、石油販売会社で知られる昭和シェルの子会社である。
子会社とは言っても、資本金351億円、従業員数1350人と、実は親会社より大きい組織となっている。創業2006年ということで、まさに爆発的に成長をしている企業といえるだろう。
さて、中国に多くの太陽電池メーカーがあることから、太陽電池は中国で安く作れるのではないかと思われるかもしれないが、中国で生産しているのは、主に結晶シリコン系に属する種類である。これは比較的成熟した生産技術で、ほぼターンキーシステム(導入時に必要な設定などが行われておりすぐに利用できるシステム)による製造が可能だ。
一方ソーラーフロンティアが手掛けるCISは、薄膜化合物系に属するタイプで、製造工程も製造時間も短く、エネルギー変換効率もまだ伸びしろのある方式だ。現在まで薄膜化合物系太陽電池の量産に成功しているのは、世界でもソーラーフロンティアと、米国ファーストソーラーの2社しかない。
ファーストソーラーは薄膜太陽電池の量産化が早かったため、既にヨーロッパで大量導入されている。ただ同社の技術はソーラーフロンティアのものと違い、材料に有害物質であるカドミウムを含む。そのため、環境保護への意識が高いヨーロッパでは、古くなったパネルの回収が必要となるなど、特例の中での導入となっている。
CISは、原材料のCu(銅)、In(インジウム)、Se(セレン)の頭文字を取ったもので、ソーラーフロンティアのCIS太陽電池では、これらを粉末状の結晶構造にしたものを利用している。インジウムの一部にGa(ガリウム)、セレンの一部にS(サルファ/硫黄)も使用するが、それらを含め総称として、CISと呼んでいる。
"化合物"というと「健康に影響がある化学薬品」のようなイメージがあるが、CISはそもそもカドミウムのような有害物質を含まない。セレンは生体内において適正量の幅が非常に狭いと言われているが、CISは一度結合してしまうと、結晶として非常に強固で安定した特性を持っており、まず分解することはない。安全性が高い太陽電池ということがいえるだろう。
市場で広く普及した結晶シリコン系に対するCISの競争力は幾つかあるが、その1つが薄膜であるという点だ。
結晶シリコン方式は、時間をかけて結晶の固まりを形成した後、それを薄くスライスしてパネル上に並べ、それらを導線とはんだでつないでいく。一方CISは、基本的には粉末状の材料を1枚のガラス板に順次真空蒸着(スパッタリング)させるという方法であるため、製造工程が短い。さらには薄膜の名の通り、薄い。シリコンの厚みは200μm程度だが、CISでは1μm強しかない。原材料の使用量では200倍の差があり、光吸収係数もシリコンの100倍に相当する。
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