コモディティ化が進むPCで大規模な国内生産を続ける企業がある。富士通のPC生産拠点である島根富士通だ。同社ではトヨタ生産方式を基にした独自の生産方式「富士通生産方式」を確立し、効率的な多品種少量生産を実現しているという。独自のモノづくりを発展させる島根富士通を小寺信良氏が訪問した。
PCはもはやコモディティ化製品の代表例とされるような成熟製品となっている。既に差別化や個性化はそれほど強く求められておらず、常にコスト競争にさらされている厳しい市場環境だ。そのため製造の中心地は、土地代や人件費の安い台湾、中国となり、これらの地域で大量に作られるのが当たり前になっている。
しかしその一方で、ソニーのVAIO製造拠点であるソニー長野ビジネスセンターのように、コモディティ化を避けるために設計と製造が一体化し、強い競争力を持つ製品をリテールマーケットに投入することで成功しているようなケースもある(関連記事:“みんなここにいる”の強さ――長野発「ソニーのVAIO」が尖り続ける理由とは)。
富士通のノートPC製造を一手に担う「島根富士通」は、リテールマーケットでの差別化競争よりも、きめ細かいカスタマイズで法人向けマーケットに注力することにより、ソニー長野ビジネスセンターとは異なるアプローチながら、PC市場で成功しているケースだといえる。今回は島根県出雲市にあるこの島根富士通に訪問し、そのモノづくりの強さを取材した。
島根県は、日本における工業、産業の中心となっている太平洋ベルト地域から見れば、中国山地を越えなければならず、非常にアクセスの悪いところのように見える。しかしその一方で、神話時代から長らく安定して栄えてきた地域であり、岩盤が頑強で過去大きな災害がない地域だ。BCPの面から見ても、大型の工場を構えるには理想的な環境だといえる。
島根富士通はその中でも、出雲空港から車で15分、山陰道氷川インターからわずか5分という恵まれた立地にあり、人材、部材流通にも優れた特性を持っている。18万m2という広大な敷地面積を誇り、2300m2の工場建屋が2つある。敷地内にはテニスコートやサッカーグラウンドといった大型スポーツ施設もあり、地域住民に施設を開放してスポーツ振興にも力を入れる。
工場そのものはまだ操業23年で、歴史のある工場が多い国内においては、比較的新しい部類に入る。1990年に「FM TOWNS」「FMRシリーズ」の製造拠点として誕生。1993年には「FMVシリーズ」の製造を開始している。1995年にはノートPCの製造にシフト。2008年にPC生産累計2000万台を達成し、現在に至っている。
従業員数はおよそ1200人で、半分が社員、半分が請負会社からの派遣となっている。平均年齢は35歳で男女比は7:3。ほとんどが現地採用だ。これだけの規模のPC生産工場は国内最大級だといえる。どうして国内生産を維持しながら、苛烈な価格競争の世界で勝ち残っていけるのだろうか。
これには、「生産革新活動」と「ICT利活用」の2本の柱に秘密がある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.