次に、初代のサンプラーの構成や仕組み、サンプル採取の流れなどをざっと見ていこう。
長さ1m、直径20cmの円筒形の装置である。探査機の本体側から、上部ホーン、中部ホーン、下部ホーンの3パートに区別される。上部/下部ホーンはアルミ製だが、中部ホーンだけは蛇腹状の布製になっており、伸縮が可能。布部分は、打ち上げ時には畳まれており、バネの力によって軌道上で展開するだけではなく、タッチダウンのときの衝撃吸収にも役立つ。
プロジェクタはホーンの根本付近に設置されており、撃ち出された弾丸は上部ホーンの小窓に貼られたアルミフィルムを突き破って、ホーン内部に侵入。小惑星表面に激突すると、その衝撃で舞い上がったサンプルが、上部/下部ホーンの内壁で反射しながら、円すい状になっている上部ホーンの奥に集まる。
ホーンの先端には、舞い上がった表面物質の破片などで探査機が破損しないようにダストガードを搭載。さらに、中部ホーンの布は、万一、弾丸が跳ね返ってきても突き破らないように、防弾チョッキと同じ素材が採用されている。
弾丸を撃ち出す装置。初代には3本搭載されており、合計3回の発射が可能だった。
弾丸は、重さ5gのタンタル製を採用。タンタルが使われている理由については、小惑星には含まれない物質であるため区別が容易であること、比重が大きいため強い衝撃を与えられる(=採取量が増える)こと、などが挙げられる。タッチダウンを検出して、発射の信号が出されると、火工品に点火され、秒速300mという猛スピードで弾丸が射出される。
サンプルの収納容器である。直径48mm、長さ57mmの円筒形で、上部ホーンの先端から伸びる細いチューブの出口に設置されており、上昇してきたサンプルをここで受け止める。内部は2部屋に分かれており、中央の回転ドアにより収納先を変えられる。
サンプルキャッチャーは、後述の搬送機構によって再突入カプセルに押し込まれるため、カプセルフタ(カプセルのふた)部分と一体型の構造になっている。
再突入カプセルの中央に埋め込まれていて、サンプルキャッチャーを格納する。サンプルキャッチャーとカプセルフタが押し込まれてくると、12本のバネによってOリングに圧力が加わり、ある程度の気密性が保たれる。この部分は「はやぶさ2」で少し改良されているのだが、それについては次回紹介する。
サンプルキャッチャーとカプセルフタを、再突入カプセル側に移動させる仕組み。チューブを待避させてから、形状記憶合金のバネでサンプルコンテナの中に押し込む。さらに、カプセルの分離に備えて、火工品でワイヤーカッターを作動させ、本体とつながっているケーブルを切断する。
以上、【前編】では主に初代に搭載されたサンプラーの概要を紹介した。続く【後編】では、今回の内容を踏まえ、「はやぶさ2」での改良点を詳しく見ていくことにする。お楽しみに! (次回に続く)
大塚 実(おおつか みのる)
PC・ロボット・宇宙開発などを得意分野とするテクニカルライター。電力会社系システムエンジニアの後、編集者を経てフリーに。最近の主な仕事は「小惑星探査機「はやぶさ」の超技術」(講談社ブルーバックス)、「宇宙を開く 産業を拓く 日本の宇宙産業Vol.1」「宇宙をつかう くらしが変わる 日本の宇宙産業Vol.2」(日経BPマーケティング)など。宇宙作家クラブに所属。
Twitterアカウントは@ots_min
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