宇宙環境で搭載機器が故障した場合、地球上と同じように簡単に修理に出すことは不可能だ。だから、人工衛星や探査機には高い信頼性が求められる。当然「はやぶさ2」でも、なるべく初代で実証できた技術を利用する方針なのだが、中には変更せざるを得ないものもある。
その1つが、枯渇部品への対応だ。初代の開発が始まったのは1996年。今から15年以上も前の話だ。この当時、Windowsのバージョンはまだ「95」が出たばかりで、200MHzのPentiumあたりが最新PCに搭載されていたような時代だ。これほどの時間がたつと、電子部品などは当時と同じものを入手できない場合が多く、「はやぶさ2」の電子機器で初代と全く同じ設計のものはほとんどないと言ってよい。
もう1つは、初代で出た不具合の対策だ。初代でのトラブルとしては、リアクションホイールの故障、化学推進エンジンの燃料漏れ、イオンエンジンの動作不安定と劣化などがあった。これら不具合を起こした該当箇所と同じ設計・技術のままだと、「はやぶさ2」でも同様の不具合が出る恐れがある。再発防止のためには、こうした部分の設計変更が必要だ。
そして、不具合ではないが、初代の運用で得られた経験を基に改良したものや、目標天体が異なるために変更されるものもある。また、初代にはなかった装置として、「インパクタ(衝突装置)」や「ランダー」が追加されている。
こうした変更の結果、実は、本体の箱の部分のサイズは1.0(W)×1.6(D)×1.25(H)mと初代に比べて高さが15cmほど長く、重さ(打ち上げ時)も600kgと初代よりも100kg近く増えているのだ。
ちなみに、初代も「小惑星探査機」と呼ばれているが、正式には「工学実証機」だった。つまり、サンプルリターンに必要な技術を実証することが主目的であり、後継機である「はやぶさ2」が本番の探査機ということになる。しかし、筆者の印象としては、まだ「工学実証」と「科学探査」が半々くらいといったところだ。決して、「同型の2機目なのだから“成功して当たり前”」というわけではないことをあらためて補足しておきたい。
「はやぶさ2」は、2014年度の打ち上げを予定している。現在、開発段階であり、これから多少の設計変更はあるかもしれないが、既に詳細設計審査(CDR:Critical Design Review)も終わっているため、現段階からの大幅な変更はないものと考えられる。とはいえ、“打ち上げ前の最新探査機”であることに変わりはない。モノによってはあまり詳細な技術情報が公開されない可能性もあるが、本連載ではプロジェクトメンバーへの取材も行いながら、でき得る限りの情報を紹介していくつもりだ。
ところで、ちょうど本稿を執筆している際、宇宙ベンチャーの米Planetary Resourcesが記者会見を開催した。その会見で、彼らは地球近傍小惑星からプラチナなどのレアメタルや水などの資源を採掘するという衝撃的な計画を明らかにした。まずは、数年以内に小惑星観測のための周回衛星を打ち上げ、その後、探査機を送り込むそうだ。
読者の皆さんは、この米Planetary Resourcesの会見をどのように捉えたであろうか。もしかすると、小惑星探査は純粋な学術の世界から、大航海時代やゴールドラッシュのような時代へと移りつつあるのかもしれない。国家と民間が入り乱れ、ますます面白いことになりそうだ。(次回に続く)
大塚 実(おおつか みのる)
PC・ロボット・宇宙開発などを得意分野とするテクニカルライター。電力会社系システムエンジニアの後、編集者を経てフリーに。最近の主な仕事は「小惑星探査機「はやぶさ」の超技術」(講談社ブルーバックス)、「宇宙を開く 産業を拓く 日本の宇宙産業Vol.1」「宇宙をつかう くらしが変わる 日本の宇宙産業Vol.2」(日経BPマーケティング)など。宇宙作家クラブに所属。
Twitterアカウントは@ots_min
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