これに対して、アップルは50%を大きく超える利益を出しているが、その理由の大半はハードウェア事業が最適化されていることに尽きる。このあたりの話は、以前のコラム(参考記事:当たり前のことを確実に――“Appleのモノづくり”から足元を見つめ直す)にも書いたので、読んでいただけた方もいるかもしれない。
実際、ハードウェア事業以外のお金の巡りは、あまり大きなものではない。キャッシュフローの大きな端末ハードウェアで、うまく大きなエコシステムを作り、コントロールしてきたのが、従来型の携帯電話だった。携帯電話事業者、端末メーカー、コンテンツプロバイダーが三位一体となったエコシステムの要は、コンテンツにあるように見えるが、実際には“ハードウェアの買い換え促進サイクル”にあったと思う。
スマートフォンではどうだろう。スマートフォンで携帯電話向けのアプリケーション市場が開放され、そこに大きなビジネスチャンスが生まれたといわれる。確かに従来よりも開かれ、自由ではあるが、最も成功したiPhoneですら、アプリケーション開発者に支払われた金額(売上の7割)が累計で25億ドルにしかならない。大きな金額ではあるが、iPhone全体が生み出しているキャッシュフローの中にあっては、ごく一部でしかない。
アップルのモデルでは、ユーザーに対して本質的な価値を出しているのは、独自設計のiOSとその上に載っている音楽、ビデオ、アプリケーションなどのコンテンツ流通システムだが、実際に利益を出しているのはハードウェアということが分かるはずだ。もうけが大きければ、他社より1台当たりの端末に掛けられる費用も大きくなり、工場への投資も大きくなるため品質も高まる。これはとても効率がいい。
ところが、Android端末のモデルは、利益を生むべきハードウェアのビジネスに欠陥がある。おそらくエレクトロニクス事業に対して、全く無知だったグーグルが主導したためだろう。同程度の価格の端末が、同じようなサイクルで売れ、OS全体としてのシェアでは互角とはいえ、誰ももうからない仕組みを作ってしまった。
グーグル自身も、直接的にはAndroidから利益は得ていない。ハードウェアメーカーがもうかる構造ならば、もう少し構造的な工夫ができたかもしれないが、現在のままなら、この先は行き止まりだ。
もちろん、こうしたことはメーカーの上層部は十分に理解しているはずだ。理解してはいるものの、他に選択肢がないためにAndroid端末で勝負せざるを得ない状況にあるのだろう。
例えばサムスンの場合、現時点だけを見ると良い状況にある。世界的に売れているハイエンドとローエンド、両スマートフォン市場に強い製品を持っており、特にハイエンド市場では高精細な見栄えの良い有機ELディスプレイを採用できる。
しかし、前述したように中期的な展望では2012年ぐらいから高精細な有機ELディスプレイの生産を、パネルメーカーのライバルが次々に立ち上げ、ディスプレイによる差異化が難しくなっていくのは明らかだ。製造装置メーカーによると、有機ELディスプレイ技術の成熟は予想よりも早そうだ。
サムスンが自社でコントロールできるOSへ投資を続けているのは、おそらくハードウェア単体では競争できないと考えているからだろう。もし、Androidだけに頼るような状況が続くようだと、徐々に影響力を下げていくと思う。
では、エリクソンからソニー・エリクソンの株式を買い取ることに合意したソニーはどうだろうか? 今年、最も力を入れたSony Tabletは、売上爆発には至っていないが、ソニー・エリクソンの事業統合はプラスに働くと思う。ソニーが持つ多様なエレクトロニクス機器との連携が、“きちんと”実装され、開発資源の統合などの効率化と商品力向上の両面で上向きになることが期待される。
とはいえ、過去10年を振り返ると、ソニーが社内の意思を統一できなかった事実は否定できない。ソニーは自社で提供するクラウド型コンテンツサービスのソニーエンターテイメントネットワークをソニー製品と結び付け、仕様をオープンにすることで他社にも参加を呼び掛けているが、現時点では各サービスの連携は悪く、“ひとかたまりの価値観”で捉えられるものに仕上がっていない。これを魅力的と見なす利用者は現時点では少ないだろう。
ただし、サムスンのように独自OS開発を続けるといった根気強く予算の掛かるやり方を続けるのではないなら、競争ルールを変えるにはアプリケーション、サービス、コンテンツなどで、iOSに対抗する軸を自ら作っていくしかない。現在の“もうからない仕組み”は構造的な問題なのだから、これを変えるには仕組みを変えねばならない。
ソニーの場合、クラウドに対して前のめりで取り組んでいるため、ソニーエンターテイメントネットワークが立ち上がらないと、対応するあらゆる製品にマイナスの影響があるだけに改善は急務だ。
もっとも、ハードウェアメーカーだけの都合で動いたとして、相手も同時に変化し続けていることは意識せねばなるまい。Androidに対するグーグルのスタンスが変化してきたように、今後も変化は続く。
例えば、Androidの開発がある程度落ち着き、機能面で端末との統合が必要なくなってきたならば、グーグルは端末メーカーではなくアプリケーションプロセッサのベンダーと開発を行い、そのハードウェア設計と一緒にOSを端末メーカーに売った方が効率も上がるはずだ。イノベーションのプロセスが続いているうちは、大きく変わらないだろうが、その先は分からない。
実は同様の手法は、既にマイクロソフトが採用している。マイクロソフトはWindows Phone 7以降、アプリケーションプロセッサベンダーとともに開発を行っている。ハードウェア仕様をタイトにすることで、iPhoneとiOSのように特定ハードウェアに絞り込んだ作り込みが行えるからだ。同じようなやり方は、Windows 8搭載タブレットでも採用しようとしている。
まだ、先のことは分からない。しかし、Androidのプラットフォームが多様化よりも効率を求め始めると、端末メーカーは流れに逆らう力を持てなくなるかもしれない。
なかなか難しい問題だけに、このテーマに特定の答えはない。もし特効薬を処方できる経営者がいるならば、いますぐにでも高給でのオファーがくるだろう。残念ながら筆者には、いますぐの処方せんを書くことができないが、来年を通した1つのテーマとして長期的に取材しながら、自分の頭でも考えていきたい。
本田雅一(ほんだ まさかず)
1967年三重県生まれ。フリーランスジャーナリスト。パソコン、インターネットサービス、オーディオ&ビジュアル、各種家電製品から企業システムやビジネス動向まで、多方面にカバーする。テクノロジーを起点にした多様な切り口で、商品・サービスやビジネスのあり方に切り込んだコラムやレポート記事などを、アイティメディア、東洋経済新報社、日経新聞、日経BP、インプレス、アスキーメディアワークスなどの各種メディアに執筆。
Twitterアカウントは@rokuzouhonda
近著:「iCloudとクラウドメディアの夜明け」(ソフトバンク新書)
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