EVの爆発的な普及には何が必要? 「無線充電」だ小寺信良のEnergy Future(10)(4/4 ページ)

» 2011年12月08日 11時20分 公開
[小寺信良,@IT MONOist]
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ロンドンの実験から未来のEVへ

 ロンドンの実験では、家庭だけではなくいわゆるパブリックチャージを普及させる際に、どのような形で提供できるのか、その課題や問題点を探ることになる。例えばガソリン車であれば、ガソリンスタンドに立ち寄って給油するわけだが、この間およそ10分もかからないだろう。

 一方、EVの場合は、いくら何でも10分では充電できない。つまり、なくなったから立ち寄るというステーション方式ではなく、普段の生活サイクルの中でどのように継ぎ足し充電していくのが望ましいのかを模索する必要がある。

 例えばスーパーマーケットの駐車場に配備するのはどうか。郊外の巨大スーパーであれば、まとめ買いをする利用者が多いため、買い物に30分以上はかかることだろう。さらに充電にある程度時間がかかるからという理由で、その店に長く滞在することになる。そうなれば買い物の量が増えることで、店としては増収が見込める。あるいは喫茶のような飲食店を併設することで、そちらの利用率が高まることも考えられる。シネコンがあれば、普段なら映画など見ない人でも、時間つぶしに入るかもしれない。

 日本には例えば2000円以上の買い物をすれば駐車料金を無料とするようなスーパーも多いが、「4000円以上買い物すればフルチャージ無料」としても、元が取れる可能性は十分ある。電力は広い屋根を利用して太陽光発電を利用すれば、(設備投資は必要だが)タダで手に入るからだ。つまりEVに対する無線充電は、ガソリンのように電気を量り売りするというビジネスではなくなる可能性があるということである。

 これはWi-Fiスポットのサービスにも似ている。例えばWi-Fiスポットを併設している飲食チェーンのことを考えてみよう。Wi-Fiが利用できるため、本来の客筋ではないリピーターが増えたり、滞在時間が長くなることで二度三度と追加で飲み物が売れたりする。

 既に電力も、これと同じ傾向があることが分かっている。例えばネットで電源が使えるカフェの情報を共有するマップは、探してみると幾つもあり、一定の需要があることが分かる。

 これまで充電ステーションというものは、各ガソリンスタンドが自力で併設していくようなイメージを持っていたが、Qualcommのロンドントライアルで全く別のアプローチが見つかるかもしれない。そうなったときに、卵が先か鶏が先かの問題に新しい答えが現われることになる。

【訂正】記事の掲載当初、2ページ目で、IHIの社名表記が誤っておりました。お詫びして訂正いたします。上記記事は訂正済みです。


筆者紹介

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小寺信良(こでら のぶよし)

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

Twitterアカウントは@Nob_Kodera

近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)



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