MONOist 日本企業の取り組みでデザインマネジメントの観点から注目すべき企業はありますか。
田子氏 私が携わってきたところでは、デンソーはユニークな取り組みをしていると思う。デンソーといえば世界の自動車メーカーを支える部品メーカーだが、今「10年後の未来に向けて自分たちは社会にどう貢献できるのか」というコンセプトの活動を行っている。今まで自動車で培ってきた強みを武器に、もっと人に歩み寄ったカタチでイノベーションを生み出せないだろうかと考えているのだ。
依頼された仕事は、具体的なプロダクトデザインの依頼ではなく、まずは「10年後にどうなっているか」というシナリオを作ったり、そのビジョンを社内に浸透させるためのコミュニケーションデザインを行うことなどだ。どちらかというと、社外に対してのデザインではなく、社内に対するブランドのデザインである。日本の企業でこのようにインナーブランディングに注目した活動を行っている企業は多くはない。こういった社内の仕組みを変えていくこともイノベーションの1つだといえる。もちろんこの案件は社長以下役員とともに取り組み、グローバルで展開しており世界中に同じ情報発信をしている。「ワンカンパニー」として結束しながら、ローカルへの最適解を考え、地球規模の課題に取り組むことも視野に入れているのだという。
また、キョーワナスタのランドリーシリーズ「nasta」も1つの成功事例だ。キョーワナスタは建築金物を扱うBtoBのメーカーだったが、認知度を高めるためにBtoCの製品を作り出したいと考えており、プロジェクトに参画することになった。最終的に「ハレのある生活」というキーコンセプトのもと、洗濯関連製品の新ブランド「nasta」を作り出した。このプロジェクトは、洗濯などの日常を再デザインしたものだ。洗濯を取り巻く住環境は、「室内干し」を必要としていたり、大きく変化しているのに、洗濯関連製品のデザインはあまり変化がなかった。ここにメスを入れる製品群を送り出した。これはBtoCとしても高い評価を受けるのと同時に、「BtoCtoB」としてキョーワナスタの本業であるBtoBビジネスにも好影響をもたらした。
これらの影響もあり、キョーワナスタは今もなおさらなる変化を遂げようとしている。「もっとクリエイティブな考えを発信していきたい」ということで、さまざまな取り組みを進めている。2014年春には本社ショールームのリニューアルデザインなども行った。
MONOist こういう取り組みは多くの日本企業でもできると考えますか。
田子氏 製品やデザインだけ、他社のまねごとをしても仕方がない。経営者がデザイナーを呼んできてすぐにイノベーションを起こせるか、というとそんな単純なものではない。デザインの本質を理解することはもちろん、どういう体制でどうやって運営して、どのように成長させていくのかを考える必要がある。こういった内容に沿って自社にとっての最適解を組み立てられる企業であれば、そこは成功企業となる。
デザインというのはブランドに強く影響を与えるものだ。製品は消費財で終わりがちだが、それを「ブランドが成長していく過程の一部にどう位置付けるのか」が重要な視点となる。ハードウェアメーカーは近視眼的であることが多く、デザインを資産と考えずにその場しのぎの製品を送り出してしまう。それだけでは、いずれ疲弊し、衰退してしまう。有形無形問わず自分たちの持つ資産を、生かすも殺すも考え方次第だと思う。
今はクリエイターの時代だと感じている。経営とクリエイティブが相互に乗り入れる時代がきたと確信している。そういう意味では日本企業でもクリエイターがイニシアチブを取ってもおかしくないと感じている。クリエイティブに理解のある人が上に立って、その意義を発信することで日本の経済や、世の中が変わることを期待している。
グローバル化により変化と競争が激化する中、製造業には自ら新しい価値を生み出すイノベーションを持続的に生み出すことが求められています。既存の価値観を破壊する「イノベーション」を組織として生み出すにはどうすればいいのでしょうか。「イノベーションのレシピ」特集では、成功企業や識者による事例を紹介しています。併せてご覧ください。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.