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» 2014年05月19日 17時30分 公開

イノベーションを生む「デザインマネジメント」の力とは【後編】製造マネジメントインタビュー(2/3 ページ)

[三島一孝,MONOist]

日常で使えない問題をどうするか

MONOist 日常で使えるようにするため、どういうことを行ったのですか。

田子氏 電子レンジや食器洗い機で利用できるようにするには、土の物性を変えないといけなくなる。技術的には非常に高いハードルになるが、もしできれば競合他社に対するアドバンテージとすることができる。さまざまな議論があったが、「できるかどうか分からないが、そこに芽があるならやろう」ということでチャレンジすることになった。しかし、取り掛かってみると想像以上に大変だった。取り組み始めた1年目は全く芽が出なかった。

 その頃には「OSORO」のプロダクトデザイン案などは徐々に固まりつつあった。しかし、新たな土でなかなか思ったような精度が出せなかった。「OSORO」は「積み重ねた時の美しさ」ということをコンセプトとしたので、器の縁は55度の角度でそろえ、安定感のあるスタッキング(積み重ね)を目指していた。しかし、陶磁器というのは焼成時に自然収縮が掛かるから、理想的なカタチにできなかった。55度を維持できなかったり、カタチそのものがゆがんでしまう。ただ、それがぶれると「積み重ねた時の美しさ」という鳴海製陶らしさが崩れるので、絶対にそこは譲れない。

 開発当初に図面を作成したとき、自社の国内工場である三重ナルミやインドネシア工場、協力工場なども含めて同じ図面でコンペをやったことがある。しかし、三重ナルミ以外の工場では自分たちで作りやすいように形を変えて作ってきた。ブランドを築き上げる姿勢として、これでは話にならない。ただその中でも、三重ナルミではまだまだ調整は必要なものの、こちらのコンセプトを理解したモノを作ってきてくれた。そこで「OSORO」は彼らと組んでやる以外道はないと考えた。またそれ自体がブランドストーリーにつながると思った。それが1年目だった。

「OSORO」 積み重ねた時の美しさを追求する「OSORO」(出典:鳴海製陶)

 2年目は本当に苦しかった。そもそもこのデザインで「本当にできるのか」という議論にもなった。そんな中で転機となった2つのことが起こった。1つは若手育成のために復帰したベテラン原型師※)が全面的なサポートをしてくれたことだ。「これはわれわれがやらなくて誰がやる」とチャレンジ精神を持って取り組んでくれるようになった。

※)デザイナーの絵を基に製品の原型を作る仕事

 もう1つが、土の研究を地道に重ねていた技術者が、電子レンジやオーブンに入れることができ、食器洗い機の使用にも耐え、ボーンチャイナに劣らぬ質感を持つ素材を作り出したことだ。この新しい土を使えば、ボーンチャイナと同様の高級感や滑らかさ、美しさを維持した上で、電子レンジなど日常で使うことができる。この2つのことで、物性と形になんとなく道筋が見えた。

 最終的にはこの素材を使うことで「OSORO」を作り上げた。耐熱食器は厚ぼったく重たかったり、表面に平滑さや艶やかさがないものがほとんどだが、「OSORO」は薄く、軽く、艶やかで滑らかという新たな物性にたどり着くことができた。形状やデザインの実現性を探る中で、新たなイノベーションを生み出せたと考えている。

OSORO 2年以上をかけて「現代のママが楽しくて、使い心地が良くて、それがあることでうれしくなるような食器」を実現した。結果として「つやつやした耐熱食器」という革新につながった(出典:鳴海製陶)

次の世代に何を残すか

MONOist デザインをベースにしていますが、取り組んだことはほとんど経営的な一大プロジェクトと言っていい規模です。

田子氏 【前編】でも触れたがデザインは「社会的課題を産業で解決する仕組み」だ。考え方としては、プロジェクト単体で目立つことをやるのではなく、次の世代に向けたブランドメッセージとして何ができるか、について考えることだと思う。正しくデザインを使ってメッセージを発信していくことで、次世代にまでつながる価値を残せる。本当の意味でデザインを追求するということは、まさに経営そのものをどう考えるかだといえるかもしれない。

 その意味では、デザインマネジメントを正しく行うためには、最初にプロジェクトの意思決定を行う人と話をし、同じビジョンに向かってイメージを共有するということが最も大切になる。それが社長になるのか事業部長になるのかは分からないが、とにかくトップと話をしないと始まらない。

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