統合型サプライチェーンプラットフォームを展開するカナダのKinaxis。その日本法人社長に新たに就任した小暮氏に、国内のSCMの現状とキナクシス・ジャパンの取り組みについて聞いた。
「日本の製造業は先進デジタル技術を生かしたサプライチェーンの変革が進んでいない」――。そう訴えるのは、2025年1月に新たにキナクシス・ジャパンの代表兼社長に就任した小暮正樹氏だ。
Kinaxis(キナクシス)は、統合型サプライチェーンプラットフォームを展開しているが、さまざまな領域の製造業向けのソフトウェア企業の経験を持つ小暮氏から見た日本の製造業のSCM(サプライチェーンマネジメント)の現状はどういうものなのだろうか。国内のSCMの現状とキナクシス・ジャパンの取り組みについて小暮氏に聞いた。
MONOist 2025年1月にキナクシス・ジャパンの社長に就任されましたが、どういう経緯だったのでしょうか。
小暮氏 前職はAVEVA日本法人でプロセス産業を中心にCADやMES(製造実行システム)などを中心にDX(デジタルトランスフォーメーション)を提案していた。買収なども含め体制が大きく変化する中で、これらに対応する役割を果たし、一段落した際にふと振り返ってみると、主要な製造業の工程におけるDXに深くかかわる経験ができていた。
製造業のDXで主に投資しなければならない領域は、基幹システムであるERPシステムを除くと3つある。1つ目は、PLM(Product Lifecycle Management)システムだが、これも過去の経歴で販売を行ってきた。2つ目はMESでこれはAVEVA時代に普及も含め提案を進めてきた。3つ目がSCMシステムで、ここは経験がなかったが関心はあった。ちょうどその頃に話をいただき、今に至る感じだ。
MONOist 製造業向けのソフトウェア展開で豊富な経験を持つ中で、国内のサプライチェーン管理の現状についてどう見ていますか。
小暮氏 先進のデジタル技術の活用によりSCMシステムもさまざまな形で進化している。まだ、顧客を回り始めて数カ月だが、そうした最新のSCMシステムによるサプライチェーン変革については、国内の製造業はまだあまり進んでいないと感じている。
現在の世界各地で起こるさまざまな事象を見ても、従来のサプライチェーンの仕組みでは、グローバルでの変化についていけないのは明らかだ。地政学的な問題や関税の問題など、日々サプライチェーンに影響を与える事象が世界中で発生している。そのため、SCMシステムをモダナイズしなければならないという危機感を現場の担当者は抱えている。しかし、それを経営者が共有できていなかったり、投資責任者が把握できていなかったりして、真剣に考えている企業が少ない。また、サプライチェーンの仕組みについて考える役割が企業の中で用意されていないケースもまだ多い。
しかし、グローバルの多くの企業がこうした多様な変化に対応できるサプライチェーンとするために、さまざまな戦略を練っている。日本企業の対応が遅れると競争力の面でギャップが生まれることになると心配している。
特にここ最近よく聞くのが「まずはERPの刷新を終えてから」というものだ。現在、ERPプロジェクトなどを進めている企業が多いためだが、そのプロジェクトの遅延などがあると、SCMシステムの導入についても後回しにするケースが増えている。ERPシステムの中にSCM機能などが組み込まれているケースも多い名残だと捉えているが、SCMは製造業にとって新たな戦略プラットフォームという位置付けになってきており、対応の遅れが企業業績に直結するものとなりつつある。ERPとの連携は必要だがそれぞれ別々で進めていくべきものだ。これらを見ても感じるが、日本ではSCMシステムに対する投資は後回しになるケースが多く、真剣度という面でも懸念がある。
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