さて、今回の本題は「タイプラスワン戦略から見たミャンマー」なのですが、正直なところ、筆者には、生産拠点としてのポテンシャルを推測しきれない部分があります。長期間に及んだ鎖国政策から民主化に転換し、ノーベル平和賞受賞者・アウンサンスーチー氏を擁するこの国は、世界中から大きな注目を浴びています。しかし、期待値が含まれているとはいえ、かなり実力以上に評価されているのではないでしょうか。
現在、メナム地域(メナム川流域の5カ国:ベトナム、カンボジア、ラオス、タイ、ミャンマー)では、当地域と中国を結ぶ形で9本の経済回廊の建設が進められています。簡単に言えば、複数の国を縦断する国際道路の建設です。
経済回廊の整備、ならびに税関業務の簡素化により、「ASEAN経済共同体(AEC)」の目玉である「AFTA(ASEAN域内の物品・サービスの自由化)」が推し進められるというのがシナリオです。2011年にミャンマーが民主化に舵を切った背景は、AECに乗り遅れる危機感があったことは間違いありません。
しかし、ミャンマーの現状を見ると、製造業誘致による工業化推進より、もっと先にやるべきことが多くあるように感じます。
例えば、巨額な資金と長い時間が必要なエネルギー、通信、道路、港湾といった社会インフラはまだ整備が始まった段階です。経済特区を発足させ、工業団地という「体」は短期間で作ることができたとしても、「血管、神経」がどこまで通うようになるのか分かりません。
また、現時点では、外国企業を対象とした法整備が進んでいる段階であり、実際の運用、特に外国企業の有する有形無形の利益が、どのように保護されるのか全く見えません。発展途上国には多かれ少なかれ存在する利権争い、わいろ、汚職といったダークサイドがミャンマーにもあります。この1〜2年では、急激な社会変化に法整備が追い付かず、一部の地元資本や外国資本に有利に働いている側面があるように感じます。これが、本来の成長に必要な公正な事業環境整備に悪影響を生むのではないか、と懸念しています。
ミャンマーは、親日国の多いASEAN地域でも飛び抜けた親日国家です。しかし、残念ながら、他の東南アジア地域と同様に、社会のさまざまな局面で中国や韓国の存在感が高まっているといえます。今後は、日本政府と日本企業がタッグを組み、官民一体の巻き返しを図っていく必要があると考えています。
今回のコラムで「タイプラスワン戦略」についての紹介は、ひとまず終了となります。次回は日系企業の進出が続くインドネシアを1年ぶりに取り上げる予定です。お楽しみに。
(次回に続く)
(株)DATA COLLECTION SYSTEMS代表取締役 栗田 巧(くりた たくみ)
1995年 Data Collection Systems (Malaysia) Sdn Bhd設立
2003年 Data Collection Systems Thailand) Co., Ltd.設立
2006年 Data Collection Systems (China)設立
2010年 Asprova Asia Sdn Bhd設立- アスプローバ(株)との合弁会社
1992年より2008年までの16年間マレーシア在住
独立系中堅・中小企業の海外展開が進んでいます。「海外生産」コーナーでは、東アジア、ASEANを中心に、市場動向や商習慣、政治、風習などを、現地レポートで紹介しています。併せてご覧ください。
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