上記で、翻訳にまつわる問題点を紹介しました。要求仕様書を定義する場合は、前回「海外のソフトウェア技術者が『阿吽の呼吸』を体得するには」でも説明したように、曖昧(あいまい)な表現を極力避ける必要があります。曖昧な表現を避ける解決策として、「あらかじめ決めた範囲の単語だけを使う」という方法があります。
例えば、「難しい(difficult)」「少し(little)」「問題ありません」のような曖昧な単語をリストアップし、レビュー時に、厳密な意味を定めて単語集に記録しておきます。この作業をプロジェクト進行中に実施することで、相手方と一緒に、プロセス改善が可能になります。もし次に同様の問題が起きれば、技術者はその単語集を見て判断できます。また、常連単語リストの作成によって、技術者の翻訳スキルも向上します。
要求仕様書のような科学技術ドキュメントの翻訳で最も重要なことは、“専門用語を正確に訳す”ことです。例えば、「仮想記憶」を英訳する場合(仮想記憶の英訳を知らないプログラマはいないと思いますが)、和英辞典から適当な言葉を拾って、「imaginary memory」と訳すと、全く意味が通じません。正確に、「virtual memory」と書くと、本1冊にも及ぶ難解な仮想記憶の概念や処理を理解できます。
逆に言えば、専門用語を正確に訳してあれば、それを目にした瞬間、複雑な処理や概念を頭に思い浮かべることができ、技術的なコミュニケーションが図れるのです。これが専門用語の威力であり、最大の効果です。
翻訳作業は、文化的背景や厳密な意味の解釈が異なるため、相手の言いたいことを完全に翻訳することは極めて困難です。この問題は、TOIECのスコアが満点の社員を雇用するだけでは解決できません。翻訳は、相手の文化的背景を考えながら、できるだけ厳密に訳すことが重要です。そして、自分の経験をベースに、単語集を作り上げていくとよいでしょう。
今回、取り上げた内容は、日本人が外国人と初めて貿易を開始した時代から起きている課題です。繰り返しになりますが、簡単に解決できるものではありません。まずは、本稿で紹介した単語集を作り、相手方と一緒に少しずつプロセス改善していただければと思います(次回に続く)。
「オフショア開発とご近所付き合い」シリーズ: | |
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⇒ | 第1回:日本と外国との“文化の違い”を“数値”で把握 |
⇒ | 第2回:行間を読む文化(日本語) vs. 読まない文化(英語) |
⇒ | 第3回:海外のソフトウェア技術者が「阿吽の呼吸」を体得するには |
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