リニアと太陽電池の不思議な関係小寺信良のEnergy Future(8)(4/4 ページ)

» 2011年10月27日 11時10分 公開
[小寺信良,@IT MONOist]
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動植物対策も重要

 実際に運用してみないと分からないことは他にもある。並んだ太陽電池モジュールの裏側には黄色い謎の糸が張られている(図15)。実はこれ、カラスがX字の棒材部分に止まらないように設置したものだそうである。棒材にカラスが止まると結線部分をちぎってしまう恐れがあるということで、対策した。最低限の対策だが、効果は絶大であるという。

図15 太陽電池モジュールの裏側にある謎の黄色い糸 X字に張られた棒材と平行して、黄色い糸がやはりX字に張られている。

 年間を通して運用していくと、案外ばかにならない作業が雑草対策である(図16)。高架下の部分は都農町の協力で、無償で草を刈ってもらっているそうだが、架線の上にも雑草が生える。ブロックのすき間に詰まった泥が原因だ。

図16 ソーラーウェイの地上面の様子 都農町の協力で周囲はきれいに除草されている。

 除草剤をまくというのも1つの方法だが、宮崎ソーラーウェイの片側は田んぼ、反対側には農業用水が流れているため、難しいだろう。太陽光発電所は可動部分がなく、人の出入りもなく、無音で永くただそこにあるだけ、という施設であるが、それ故に自然とどのように折り合いを付けていくか、テクニックが問われることになるようだ。海外の太陽光発電所では、雑草対策として年に何度か羊や鴨を放牧しているところもあるそうだ。

宮崎を助ける新産業としてのメガソーラー

 太陽光発電所は地域にとって、限りなく無害な工業施設である。さらに発電した電力が地域のために使われればよいのだが、現在はまだそこまでには至っていない。これには地域のスマートグリッド化が必要になってくる。

 都農町はもともと農業が中心の町であり、畜産農家も多かった。ところが2010年4月、家畜に発生する法定伝染病の1つ、口蹄疫に感染した牛が見つかった。あとは皆さんもご存じのように大量の牛や豚、山羊などが殺処分となったことで、この地域の畜産は大打撃を受けた。

 以前は宮崎ソーラーウェイ付近でも畜産独特の臭いが漂ってきたというが、現在はまったく臭いもしない。車で現地に向かう途中にも家畜舎らしき建物を幾つか見たが、中は空っぽであった。

 都農町は、すぐに農業に変わる産業とまではいかないまでも、長期的には自然エネルギー活用の町へ転換したいというビジョンを持っている。実は宮崎県自体、太陽エネルギーに対するリテラシーはかなり高い。というのも、太陽熱温水器の設置率が非常に高いのだ。筆者が子どものころでさえ設置している家は珍しくなかったので、既に40年以上太陽エネルギーを一般家庭で利用してきたことになる。当然太陽光発電への理解も高く、家庭向け太陽光発電設備導入の機運も高まっている。

 そのような中、宮崎ソーラーウェイが都農町のシンボル、あるいは観光資源になる可能性もある。もともとリニアモーターカーの実験線は1970年代当時、日本の最先端テクノロジーのシンボルであった。その施設がそのまま次世代エネルギーのシンボル的な施設になるのではないかと期待されている。

 運営会社の宮崎ソーラーウェイは、可能な限り見学に対応している。技術的な視察にとどまらず、観光としての見学も、人数がまとまれば可能だという。雑草の駆除を兼ねた鴨やアヒルの放牧などを進めれば、畜産復興のためのイメージアップにもなるだろう。

 何せ大電力が流れる部分もあるので、自由に立ち入ることはできない施設ではあるが、地域の理解があってこそのものであり、さらには地域にどのような貢献ができるかで受け止め方も変わる。続いて第三、第四の発電所ができるかどうかも、この発電所の成功にかかってくる。

メガソーラーには2MWの壁がある

 今後同様のメガソーラーの建設が、異業種参入により進む可能性が高い。メガソーラーはその名の通り、1MW(1000kW)以上の発電能力を持つソーラー発電所を指すわけだが、そこにはどうも「2MWの壁」がありそうだ。

 というのも2MWを超えると、送電に「特別高圧線」を使用しなくてはならなくなる。特別高圧線で送ればPPS経由ではなく、直接電力会社と接続できるが、そうなると送電線の架線には一般的な電柱ではなく、鉄塔を建てなければならない。さらには変圧器も受注生産品しかないなど、2MWのラインを超えると送電コストが跳ね上がってしまう。

 仮に1カ所で2MWを超える施設ができた場合、コスト削減のために2分割などして2MW以下で送電することが可能なのか、またそれがどのような規制に引っ掛かるのかは判然としない。技術的な道はもう見えつつある現在、震災対策としての臨時措置ではなく、早急に法整備を進める必要があるだろう。


筆者紹介

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小寺信良(こでら のぶよし)

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

Twitterアカウントは@Nob_Kodera

近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)



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