総合商社の双日は、ドイツで24MWと大規模なメガソーラー事業を開始した。なぜ日本企業がドイツで発電事業を手掛けるのか。ドイツに立地するメリットは何か。どのような国がメガソーラーに適しているのか。複数の発電所を比較し、成功するメガソーラーの条件を探った。
発電事業は息が長い。いったん建設した発電所は20年間以上動き続ける。これほど先の経済環境を見通すことは難しい。発電所を建設して運用することを考えると、年度ごとの電力需要はどの程度なのか、電力料金をどの程度に設定できるのか、全てが未知数だ。全てが未知数にもかかわらず、初期投資費用の見積もりを誤れば、利益は出ない。
これは電力が完全に自由化されて、政府の規制、補助が全くない場合の話だ。実際には、さまざまな電力源を有効に利用できるように政府の支援が受けられる。現在の予測で安くつくと判断して、全事業者が1つのエネルギー源に集中してしまうのは危険だからだ。これまで日本では原子力に手厚い補助が与えられてきたが、今後は再生可能エネルギーにも広がっていく。
再生可能エネルギーに対して、息の長い支援を続けてきたのがドイツだ。電力の固定価格買い取り制度(FIT)を10年以上継続している*1)。電力事業者にとってFITにはどのような利点があるのだろうか。
*1)ドイツは1990年に電力供給法(StrEG)を可決しており、再生可能エネルギーの系統連系などについて定めた。これがFITの原型である。2000年には再生可能エネルギー法(REL)が施行されている。
冒頭で示した電力需要量と電力料金が確定することだ。発電所の出力を決めて、年間発電量を試算すれば、FITによって長期間の収入を確実に見積もることができる。そうなれば、発電所建設など、初期投資に掛けられる費用を逆算できる。発電事業のリスクが大幅に下がることが、FITの利点だ。
発電した電力は長期間にわたって全量買い取ってもらえる。さらに買い取り価格も確定している。FITは電力事業者にとって、非常に都合が良い制度だということが分かる。
FITは電力事業者を甘やかすだけの制度なのだろうか。そうではない。日本企業の実例から、FITがどのように働くのかを見てみよう。
総合商社の双日は、ガスタービンを使ったコンバインドサイクルによる独立系発電事業者(IPP: Independent Power Producer)としての実績を積みつつある。2010年には10%強の出資比率で中東のサウジアラビアやオマーンなど3カ所に合計3208MW(320.8万kW)の発電所を建設し、IPP事業を開始すると発表している。
2010年5月にはドイツ南西部バーデンヴュルテンベルク州のベッツヴァイラー(Betzweiler)で総事業費約10億円をかけた3MWの太陽光発電IPP事業を開始した(図1)*2)。
*2)同社は1999年に3カ年の中期計画「Shine 2011」を策定しており、環境・新エネルギーを新規育成分野と定めている。ベッツヴァイラーの太陽光発電事業は、双日の100%子会社であるSojitz Solar Betzweilerが運営する。
発電した電力はベッツヴァイラーを管轄する配電事業者EnBW Regionalに販売する。20年契約で1kWh当たり31.94ユーロセントという価格だ。
双日は2011年10月24日、今度はドイツ北東部のブランデンブルグ州ミックスドルフ(Mixdorf)に発電能力24MWのメガソーラーを設置*3)、IPP事業を開始した(図2)。24MWという出力はドイツにおいても最大規模であるという。総事業費は約63億円(5700万ユーロ)である。発電した電力はドイツの電力公社EON-Edisに販売する。契約期間は20年、1kWh当たり22.07ユーロセントで販売する。これはFITで定められた値だ。
*3)発電所の設計や調達、建設、試運転を担当したのはドイツの太陽光発電事業会社であるWirsol Solar。
2つのメガソーラーを比較することで、FITがどのように働いているのかが分かる。
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