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» 2006年01月20日 00時00分 公開

年45億個の出荷を目指すアームの戦略とは組み込み企業最前線 − アーム −(2/2 ページ)

[石田 己津人,@IT MONOist]
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新アーキテクチャで新領域目指す

 携帯電話やPDA、iPodなど、モバイルAV機器でARMコアはデファクトに近いポジションを得ており、先行き安泰に見える。だが、アームは現状に満足せず、かなり強気の中期計画を立てている。2010年には、年間出荷数を45億個に引き上げるというのだ。内訳は、携帯電話で20億個、残り25億個は携帯電話以外の分野。現在のところ、出荷されるARMコアの3分の2は携帯電話向けだが、ほかの分野を伸ばして、その比率を半分以下に引き下げるという。

 その拡大戦略を担うのが、ARM11の後継となる最新アーキテクチャ「ARM Cortex」ファミリである。用途ごとに以下の3種類のシリーズが用意されている。

  • Cortex-A(アプリケーション向け)
  • Cortex-R(リアルタイム処理向け)
  • Cortex-M(マイコン向け)

 AシリーズとMシリーズの第1弾製品「Cortex-A8」「Cortex-M3」はすでにライセンス供与が始まっており、それぞれ4〜5社が名乗りを挙げている。Rシリーズについても、2006年中に具体的な製品が発表される見通しである。

図1 ARM CPUロードマップ 図1 ARM CPUロードマップ

 消費電力を維持しながら性能を2倍以上に向上させたAシリーズは、リッチアプリケーションを処理するためのプロセッサコアである。アームが得意とする携帯電話やPDA、モバイルAV機器の高機能化に対応するものだ。モバイル機器向けなら、65nm(ナノメートル)ルールで製造すると周波数は600MHz。消費電力は300mW以下に抑えられ、シリコンサイズも4mm2以下で済む。据え置き型のデジタル家電向けなら90nmルールで最大1GHz、2000DMIPSと、ほとんどPC向けCPUに近い性能を発揮する。コード密度を高める独自技術「Thumb-2」が、高性能化に大きな役割を果たしている(3シリーズ共通)。

 Cortex-A8のもう1つの特徴は、充実した機能拡張ブロックである。マルチメディア処理を高速化する「NEON」を標準実装するほか、Javaアクセラレータ「Jazelle-RCT」、セキュリティ拡張ブロック「TrustZone」も搭載されている。西嶋氏は「2007年段階において携帯電話に求められる機能を想定してCortex-A8を開発している。デジタル放送受信、電子マネー決済、Wi-Fi通信、指紋認証など、機能がてんこ盛りとなっても余裕を持って処理できる。Cortex-A8のスペックは当面、携帯電話、PDA向けプロセッサのスタンダードになるだろう」と自信を見せる。

 Rシリーズは、ハードなリアルタイム性が求められるディープエンベデッド分野に向けたCPUコアとなる。詳細は明らかになっていないが、データ入出力の遅延時間を抑えてリアルタイム性を高めてくると思われる。一方で、ミッドレンジのアプリケーションプロセッサと同等の性能を持たせ、Aシリーズと同じく高性能なマルチメディア処理ブロックや浮動小数点ユニットなどを実装するという。ディープエンベデッド分野でも性能とリアルタイム性の両立が求められる車載用途などをメインのターゲットにするようだ。

 最後のCortex-Mシリーズは、機能拡張を目指すAシリーズとRシリーズと一線を画し、コストに特化している。ARMとしては初めて、いわゆるマイコン(MCU)分野への浸透を狙った戦略製品といえる。第1弾のCortex-M3はコア部分がわずか33kゲート(周辺回路を含め60k)。180nmルールで製造した場合、周波数は最大100MHzとなり消費電力は0.15mW/MHz、性能は1.2DMIPS/MHzと、一般のマイコン用途では申し分ない。さらに高速な割り込み処理に対応しており、高性能マイコンとしても使える。

図2 Cortex-M3プロセッサの構成 図2 Cortex-M3プロセッサの構成

マイコンの32ビット化で数を稼ぐ

 このARM Cortexファミリにより、アームは「2010年で年間出荷数45億個」という途方もない目標を現実のものとしようしている。確かに、幅広い組み込み機器のニーズを吸い上げそうである。

 Aシリーズについては、すでに米フリースケール・セミコンダクタ、松下電器産業,韓国サムスン、TIがライセンシとなっている。特に、松下はアームにとって心強いパートナとなるだろう。松下は、自社AV機器への採用を進めているデジタル民生機器向け統合開発プラットフォーム「UniPhier」のCPUにARMコアを採用しているが、2008年にも登場する“次世代UniPhier”には、Cortex-A8を採用するといち早く表明している。この分野でのアームの強さは、いっそう揺るぎないものになりそうな感もある。

 Rシリーズの可能性は未知数だが、そのメインターゲットと思われる車載分野でもアームはジワジワと存在感を高めている。ARMコアを採用した車載向け半導体は、いまでもABS(アンチブレーキシステム)などの制御系、ダッシュボードといった情報系、パワートレインを代表とするボディ系と満遍なく採用されている。さらに、欧州勢を中心とした自動車向け組み込みソフトウェア標準化団体「AUTOSAR」(注)においては、“標準CPU”としてARMコアを採用する動きもあるとささやかれる。

※注
BMW、ボッシュ、ダイムラー・クライスラー、オペル、シーメンスVDOオートモーティブなど欧州の自動車関連メーカーが中心となって2003年7月に設立したAUTOSAR(オートザー:Automotive Open System Architecture)は、自動車向け組み込みソフトウェアの標準化を図る団体。コアパートナは9社で、日本のトヨタも一角を占める。

 西嶋氏は「AUTOSARは決して特定メーカーのCPUコアを標準として指定することはないが、機能ごとに仕様を定める場合、ARMアーキテクチャを参考することはあるようだ。われわれとしても車載分野の伸びには期待している」と話す。車載分野は今後、半導体需要が最も伸びる分野とされるだけに、標準的なポジションを得るとビジネスボリュームは大きい。

 アームがCortexファミリの中で数量を期待しているのは、マイコン用途のMシリーズである。マイコンでは依然、8/16bit品が多く使われている。8/16bitではコードサイズが32/64kbytesと限られる中でアプリケーションが多機能化し、コードサイズの肥大化を抑えるのも限界に達している。マイコンが32bit品へシフトするのは時間の問題だろう。この流れにコストパフォーマンスの高いMシリーズをぶつける考えである。

ライセンシの半分が仕込み中

 ARMコアの場合、ライセンスが供与されてから搭載機器が市場に出回るまで2〜3年のタイムラグがある。つまり、Cortexファミリを載せた組み込み機器が広く出回るのは2007〜2009年ごろになる。ただ、それを待たずして、ARMコアの適用範囲は広がりを見せ始めている。西嶋氏は「ARMといえば“携帯電話向けCPUコア”というイメージが強いが、実際はこれまでも幅広い用途で使われている。ここ数年は携帯電話の勢いが強くてほかの分野がかすんでいたが、最近ではほかの分野の伸び率の方が高く、携帯電話の構成比は徐々に下がり始めている。この傾向は今後も続くだろう」と話す。

グラフ2 アームが掲げる出荷目標 グラフ2 アームが掲げる出荷目標

 西嶋氏が自信を見せる理由は、ライセンシ165社のうち、現時点でARMコアを搭載した半導体チップを量産しているのは半分にすぎないからだ。残り半分のライセンシは、いま料理(SoC)を“仕込み中”なのである。それらのSoCを載せた機器(ほとんどが携帯電話以外になると思われる)が登場してくるのは、まさにこれからなのだ。「最近は、われわれが手掛けるARM向け開発ツールのビジネスが盛り上がってきており、実際に多くのライセンシで開発が進んでいるようだ」。

ライセンシの半分が、これからARMコア搭載チップの量産を始める ライセンシの半分が、これからARMコア搭載チップの量産を始める

 ただ懸念は、ARMコアの適用範囲が広がるにつれて、ライセンサであるアームとライセンシである半導体メーカーのビジネスがバッティングする局面が増えるのではないかということ。国内市場に限っていえば、マイコンや車載向け半導体は、国産半導体メーカーの重要な砦だろう。Cortex-A8のように「マルチメディア領域」にまで踏み込むと、それを競争源としている半導体メーカーのビジネスを侵食するのではないか。

 これに対して、西嶋氏はこう答える。「半導体メーカーはそれぞれのコア技術を持っている。それ以外の部分でARMをうまく活用してもらえればよい。例えば、Cortex-A8の採用を決めた松下さんもマルチメディア処理には(A8付属技術ではなく)自社技術を使う方針と聞いている。1から10まで自社技術にこだわったプロプラエタリな製品だと市場は限られるが、自社製品のごく一部分にARMを使うだけで、世界を相手にしたビジネスがしやすくなるはず。国産半導体メーカーとは今後も協調してゆける」。

 いずれにせよ、アームはこれから先も半導体業界から組み込み機器業界まで、最も影響を与える企業の1つであることは間違いないだろう。

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