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» 2005年07月20日 00時00分 公開

MontaVista Linuxは携帯から自動車情報系へ組み込み企業最前線 − モンタビスタソフトウエアジャパン −(2/2 ページ)

[石田 己津人,@IT MONOist]
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プロセッサ環境がLinuxの追い風に

 モンタビスタの日本法人が設立されてから5年。国内の機器メーカーの開発部隊と連携し、PC向け汎用OSのLinuxから正真正銘の組み込みOSを作り上げた功績は小さくないだろう。有馬氏によれば、「TRONのような従来OSが20年かけて行ってきた技術改良を、5年間で集中的にこなしたようなもの」という。

 図1に示したとおり、いくつもの技術的なブレークスルーがあった――カーネルサイズの縮小、リアルタイム性を向上させたスケジューラ、タイマのチューニング、I/Oの効率化、QoS(Quality of Service)を実現するリソースリザベーションの強化、iTRONとの協調動作するT-Linuxの開発など――これらの地道な技術改良の蓄積が、2004年辺りから目立ち始めたコンシューマ機器でのMontaVista Linux搭載を導いたのである。

MontaVista Linuxにおけるキー・テクノロジーの遷移 図1 MontaVista Linuxにおけるキー・テクノロジーの遷移
HHL:Hard Hat Linux
MVL:MontaVista Linux

 まず、搭載製品として登場してきたのが薄型テレビやDVDレコーダといったデジタル家電。これらの機器は、EPG(電子番組表)機能、ネットワーク機能、ファイルシステム機能などを搭載しており、こうしたPCライクな機能をサポートする組み込みOSとしてLinuxは最適だったわけだ。有馬氏によれば、薄型テレビの8〜9割に組み込みLinuxが採用されており、MontaVista Linuxのシェアはかなり高いとみられる。2004年、モンタビスタは世界の組み込みLinux OS市場で46%、日本市場で63%のシェアを占める(富士経済調べ)。

 そして2005年に入り、モンタビスタがコンシューマ機器分野では最大ターゲットとしてきた3G携帯への搭載が本格化し始めた。

 その背景には、OS自体の進化だけでなく、半導体技術の進化もある。半導体パワーが上がり、高性能プロセッサを採用する3G携帯のようなコンシューマ機器では、組み込みOSにハードなリアルタイム性を求めなくなっているという。そのため、iTRONなどのRTOSと比べて組み込みLinuxの欠点とされてきたリアルタイム性の低さがそれほど問題視されなくなっている。

 「本当にシビアなリアルタイム性が求められる機能はハードウェアで実現するもの。OSが担うリアルタイム性なら、われわれが実現している数十マイクロ秒(μs)程度の応答速度もあれば十分だろう。組み込みOSが1マイクロ秒単位で応答速度を競い合う時代は終わりつつある」(有馬氏)。

 実際、パナソニック、NECのLinux携帯はツインCPU構成で、ベースバンドチップ上にiTRON、米テキサス・インスツルメンツのアプリケーションプロセッサ上にMontaVista Linuxが載っている。半導体パワーをOSやアプリケーションに余裕を持って割り当てられる構造なのだ。また、最近は複数のプロセッサコアを1個のチップに集積する「マルチコアプロセッサ」により、個々のプロセッサコアに特定の処理を割り当て、OS側の処理を簡素化できる環境も整ってきた。

 このように、組み込みシステムでも高性能プロセッサを積めるようになったこともMontaVista Linux採用を後押ししているのだ。逆にいえば、半導体メーカーも今後、サポートする組み込みOSの取捨選択を強めるはずで、標準的で実績のあるMontaVista Linuxは有力候補となるだろう。

2010年、自動車はLinuxを搭載する

 コンシューマ機器では採用実績を伸ばしつつあるMontaVista Linuxだが、適用分野はそれだけではない。モンタビスタのターゲット市場は、コンシューマ機器以外にもキャリア向け通信設備、産業機器と幅広いものがある。

モンタビスタの歴史を振り返る有馬氏 モンタビスタの歴史を振り返る有馬氏

 まず、前述したようにモンタビスタは通信設備向け組み込みLinuxでも技術的なアドバンテージを持っており、FOMA向け基地局設備などで採用実績を伸ばす。

 有馬氏は「通信料金が下がる中で、通信設備のコストパフォーマンスを上げることがキャリアにとって大きな課題となっている。そのためカスタム機から汎用的でオープンなインテルプロセッサを採用した通信設備への切り替えが始まっている。そこにわれわれの組み込みLinuxが入り込む余地が十分にある」と指摘する。通信設備のオープン化の動きは今後、通信設備の各ノードで活発になってくるとみられる。基地局からセンター側まで、大きな需要が期待できる分野だ。

 さらに、産業機器分野でも組み込みLinuxに対するニーズが高まっているという。あらゆる機器がネットワーク機能を実装し始めているからだ。身近なところでは、ビジネスプリンタやデジタル複合機、さらに交通信号のような制御機器、医療機器までさまざまである。すでにビジネスプリンタとデジタル複合機での採用は始まっており、「各メーカーとも製品サイクルに応じて搭載してくるのは確実」と、モンタビスタ日本法人では各産業へバーティカルに対応してゆく考えである。

 そしてコンシューマ分野には、携帯電話以上に大きな需要源が手付かずで残っている。「日本法人社長としては、国内の自動車産業での採用を実現させたい。いまや自動車産業の国際競争力は、組み込みソフトに掛かっている部分が大きい。そこに貢献したい」と有馬氏が抱負を語る。

 将来的に自動車は膨大な組み込みソフトウェアを組み込み、自動車産業の半導体需要はPC産業のそれを上回ると予測されているほどだ。車内にはLANが張り巡らされ、車内外のITS(高度道路交通システム)アプリケーションとの高度な情報連携が行われるとみられる。この分野でも日本メーカーが世界に先駆けているといわれる。

 その車内情報システムの基盤として組み込みLinuxの活用が有望視されている。すでにモンタビスタは国内の自動車メーカーと技術連携を深め、中期計画で取り組んでいるようだ。自動車メーカーの要求スペックは非常に高く、一般のコンシューマ機器より数段高い。だが、有馬氏は「日本法人設立から5年かけてLinux携帯がモノとなった。次の5年、2010年にはLinuxを積んだ自動車を現実のモノにできる」と自信を見せる。これからもモンタビスタの動きからは目が離せない。

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