アップルが主張する知財権は、特許、商標、意匠の複合型でした。具体的にいうと、特許はロック解除やバウンススクロールに関連するものが中心です。ロック解除特許は「USP8046721」に代表されますが、この特許をめぐってAndroidに搭載されている指先による9点でのパターン解除技術の特許侵害が争われました。
商標は、アイコンデザインに関する米国商標10件とトレードドレス2件が主張されました。トレードドレスとは、画面上のアイコン形状や配置レイアウトの特徴を保護する商標権の1つです。また、デザイン特許として、トップダウン型またはフルスクリーン型メニューの生成画像に関するデザイン特許やポケット型のコンピュータおよびデータ処理装置に関するデザイン特許が主張されました。
米国の場合、デザイン(意匠)も「パテント」の一種で、「デザイン特許」(design patent)と呼ばれています。初代iPhoneのデザイン特許は「D558758」でカバーされています。ちなみに、日本の「特許」は、米国では「有用特許」(utility patent)と呼ばれているものです。
裁判で争われた特許の技術分野は、「電気通信」「同一局における送信機および受信機(例:トランシーバ)」「無線電話設備の細部」「表示を有するもの」が中心でした。その特徴は、これらの技術と、携帯端末の形状やグラフィカル・ユーザー・インタフェース(GUI)に関するデザイン特許、商標そしてトレードドレスなどを組み合わせて権利主張していることです。
アップルは2012年6月に、経営破綻したカナダNortel Worksから、米国マイクロソフト(Microsoft)やソニーなどと共同で同社所有の通信・半導体関連特許6000件以上を買収していますが、これは、サムスンや米国モトローラ(Motorola)との裁判を意識したものだと考えられています。
これらのアップルの動きに対してサムスンの主張は、メーカーとして比較的シンプルなものです。その特徴は、長年メーカーとして蓄積してきた膨大な特許出願数を背景に、無線通信や画像処理などの広域分野での特許権を主張している点にあるといえます。サムスンは、最近は世界トップクラスの特許出願数となっており、分厚い特許網を構築していることがその背景にあります(関連記事:パナソニックが首位返り咲き! 国際特許出願数――トップ15のうち5社が日本企業)。
サムスンは、第3世代(3G)モバイル通信技術の標準である「広帯域符号分割多元接続」(WCDMA)規格について、必須特許を所有していることを宣言していました。今回の一連の訴訟では、これらの必須特許がアップルのiPhoneやiPadにより侵害されたとサムスンは主張したのです。
アップル、サムスン両社の主張のポイントや訴訟戦略は、米国地裁での弁論を追うと理解しやすいだろう。カルフォルニア州のサンノゼ地裁の裁判でアップルの訴訟代理人は、陪審員に対してサムスンのデザイン模倣を視覚的にアピールする戦略を採ったといわれています。
アップルの代理人は、iPhone発表の前後で、Galaxyのボディー形状が、大きく変わっていることを視覚的に示し「サムスンがアップルのiPhoneデザインを盗用した」のは明らかだと主張したようです。これに対してサムスンの弁護士は「製品デザインは市場ニーズに影響を受けたもので、当時の業界全体が角張ったボディーデザインから丸みを帯びたボディーデザインに移行していた時期だった。デザイン盗用の主張は当たらない」と反論します。さらに「そもそもアップルのデザインは旧知のもので権利は無効である」とも主張したそうです。
しかし、陪審員はアップルの主張を全面的に支持し、iPhoneに関わる特許3件とデザイン特許2件、そしてトレードドレス2件が侵害されたと判断しました。サムスンの主張(アップルによる自社特許3件の侵害、デザイン特許4件の侵害)は認められませんでした。
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第1回では、アップルとサムスンの訴訟の経緯とそれぞれが主張した点について振り返り、説明しました。次回は、重要なポイントの1つであるサムスンのFRAND宣言について解説したいと思います。(次回に続く)
福島大学経済学部卒。早稲田大学大学院法学研究科修了(経済法専攻)。日本技術貿易株式会社および米総合法律事務所モリソン・フォースター東京オフィスにてライセンス契約、海外知財法制調査、海外訴訟支援などを担当。2005年から東京理科大学専門職大学院MIP教授。専門は技術標準論と米国特許法。著書に『知財担当者のための実務英文入門』、『標準化ビジネス』(共編著)、『米国知的財産権法』(訳書)、『よくわかる知的財産権問題』、『特許と技術標準』がある。東京大学情報理工学系研究科非常勤講師。
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