アジアで成功する5つのカギ――「GOOD FACTORY」賞に見る“強い工場”の特長とはモノづくり最前線レポート(2/2 ページ)

» 2014年03月03日 13時00分 公開
[廣瀬純男/日本能率協会 JMAマネジメント研究所 主管,MONOist]
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(3)心を開くコミュニケーション

トップが先頭に立ち、現地の人とのコミュニケーションを大切にする

 トップが工場全体に与える影響は計り知れません。だからこそ同じ目線で心を開き、コミュニケーションを取りながら、現地の従業員と気持ちを合わせていく必要があります。

 2011年に「ファクトリーマネジメント賞」を受賞した東芝情報機器フィリピン社の工場長は、毎日欠かすことなく工場の入口に立ってあいさつをされています。そこには「同じ目線ですよ」というメッセージがあるように思います。一方で、操業している国の元首と握手する姿を従業員にも見てもらえるように工夫をしています。元首とも握手ができるような人が、毎朝にこやかに自分に向かってあいさつをしてくれる、それが従業員に感激をもたらすのです。

 年度や半期ごとの計画も、対話を繰り返しながら現地人マネジャー主導で作ります。私が現地審査に赴いた際は、自分の言葉で自信を持って説明してくれました。加えて印象的だったのは、どのマネジャーからも「TRUST」という言葉が聞かれたことです。コミュニケーションの過程を通じ、計画や目標は与えられるものでなく、自分たちで作り上げていくのだという風土が醸成されていました。

(4)行動を導き出す工夫

現地のメンバーが自ら行動できるように種々の工夫をしている

 現地工場をマネジメントするためには、国内工場以上に「定期化(習慣化)」「見える化(共通認識を持つ/自部門以外に関心を持ってもらう)」「自立化・自主運営の促進(最終的に自律してもらうための工夫)」が必要です。

 日本と欧米企業の違いは、現場からマネジャーや幹部に昇進できるパスがあるかどうかで、日本企業では昇進への道が開けていることが従業員のやる気につながっています。それには誰もが納得できる評価方法の確立が課題となります。

 2013年に「ファクトリーマネジメント賞」を受賞した三菱電機タイは、従業員約3000人に対して日本人出向者はわずか5人で運営されていました。創業当初から現地化への強い意識で運営され、工場は日常的にはほぼタイ人スタッフで運営されています。

 そのためのツールとして大きな役割を果たしているのが、「Quality&Harmony」というスローガンから始まる中期計画をベースにしたマネジメントシステムです。マネジャーたち自身による計画づくりと業務展開のPDCAが回される仕組みが作られており、現地化された業務推進の基本となっています。

 さらに、初期からR&Dセンターを設置し、現在はマザー工場である静岡工場と協力して新機種の開発までをも担当するほどに力を付けています。自立化を目指して高い技術力を身に着け、現地人スタッフによる新しい工場の建設などを可能にしており、ライン編成や設計に際しても3次元CADや動画によるシミュレーションなどを駆使するなど、高いレベルでの検討が行われています。

(5)個と全体を意識する

トップが個(従業員、スタッフ)と全体(経営そのもの)の両方を見て運営する

 社員の期待感とモチベーションを高めるためには、ローカルメンバーを登用することが不可欠です。個々の社員を見つめて育成し、力を発揮する場を提供して能力を引き出すこと、また、日常的に会社・工場全体が一丸となって働ける雰囲気作りも重要です。個人と組織、会社をいかに有機的につなぐかが、海外において工場経営を行う際のポイントです。

 2011年に「ものづくりCSR貢献賞」を受賞した富士ゼロックス深セン工場は、流動性の高い中国の労働市場を見据えて、戦略的に中学校卒の人材を採用していました。かつて日本企業が「金の卵」といわれた若い人材を育てたように、同工場では社員旅行や運動会を通じて信頼関係を構築し、5Sなどモノづくりの基本を教えながら、改善提案の奨励など現場力を高める努力を行っています。また、要望を吸い上げる匿名の目安箱の仕組みや、社内イントラネット経由でも意見を伝えられるようにしています。

 私が感動したのは、当時8000人近い全従業員が董事長と個々に話すことができる制度を設けていたことです。仕事や待遇上のことだけでなく、人間関係、恋愛などプライベートの悩みも受けつけるというのです。さらに、資産形成、子育てなど仕事とは関係のない講座も開設していて、若い工員の人間的な成長も支えています。もちろん、現場でも組長が工員を個別にケアし、昇進させる仕組みもあります。このような施策の結果、深センの他企業に比べて離職率が3分の1程度と低く、忠誠心の厚い熟練社員を蓄積していくことで高い生産性を実現していました。

 以上の5項目は、進出国や生産品、事業形態が異なるにせよ、工場経営を行っていく上で、常に意識して取り組むべきポイントといえます。受賞企業は、それぞれについて実にきめ細かい工夫を施し、工場経営の仕組みとして運営しています。

まとめ

 さまざま民族、言語、宗教が交じり合い、都市部と地方の経済格差、教育の差が日本より大きい国家で、「あ・うん」の呼吸で分かり合える関係を築くというのは奇跡に近いことです。日本語で指示すれば伝達される環境など世界を見渡せば本当に特殊で、アジアの工場で働くマネジャーたちには、日本とは比較にならないほどの苦労を重ねていると言えます。

 彼らは本当に多くの「対話」の場を設定しています。日本本社、日本人幹部の思いを伝えるだけでなく、現地幹部、スタッフが本音をいえる場、建設的な議論ができる雰囲気作りに努めているのです。「日本人ー現地人」という構造や役職の上下関係だけでなく「現地人−現地人」という工員同士のヨコのつながりにも目配りがなくてはうまくいきません。

 自社をGOOD FACTORYへと導いた幹部メンバーたちには、生産性向上、黒字化という工場経営の手腕とともに、働く人全てにいきわたる細やかな気遣いがありました。どちらか一方ではなく、経営全体を見渡す、個人を大切にするという両輪が回ってこそ施策が上手くいく秘訣となっているのでしょう。

 工場の経営には、良い波もあれば悪い波も訪れますが、それを乗り越え、10年、20年とタスキをつなぎ続ける取り組みの先に、GOOD FACTORYがあります。それを目指すには、現地に赴任した工場長やマネジャーだけではなく、息の長い取り組みを支える日本本社の強い意志と、現地の工場経営陣への理解が求められています。

ポイント


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