中国では見えの文化が中小企業の人材確保の障壁!? ブランド企業“以外”のメーカーが優良人材を確保するための経験則とは。
中国でもトヨタ自動車、キヤノン、パナソニック、ソニーといった企業は「ブランド企業」です。ブランド好きの傾向が強い中国人からすれば、日本語を生かせる一流企業として人気があります。上海で中国人の面接をしていると、漫画やドラマを介して日本語を学んだ大勢の中国人に出会います。日本語をマスターして日本企業でキャリア形成を狙う人たちが多くいることが分かります。
しかし、当社のような中小企業の場合、ジョブホップのためのキャリアに書いて見栄えのする企業名でもなく中国では無名に近い存在です。中国に進出してくる日系中小企業のほとんどがそうだといえるのではないでしょうか。こうなると、なかなか求める人材に巡り合えないのも事実です。
ですから、このような環境の中でよい人材を採用し、なおかつ継続して勤務してもらうためには、大変な努力が必要です。今回は、当社が現地人材を確保するために取っている作戦を紹介しましょう。
まず、キーマンとなる中国人は日本で採用します。日本のビジネスルールに慣れていない人材は、日系企業のマネジャーには向きませんし、現地で教育することも、よほど体力のある企業以外は難しいというのが現実です。
現地採用の中国人で日本語ができたとしても、過去に日本企業での勤務経験がない人材は避けた方が無難といえます。また、人材対策の一環として、中国人を現地法人の責任者などにしていくこともよい施策ですが、必ず日本人の「お目付け役」を置きましょう。
当社が拠点を置く上海では、常に人材紹介会社の魅力的な広告宣伝がフリーペーパーに踊っています。中国人同士はお互いの給与を教え合う傾向がありますから、常により高い給与の企業に転職したいと思うのは仕方のないことでしょう。
そんな環境ですから、当社でも優秀な総経理に転職されてしまったり、技術者に独立されたりと、大変な思いをして会社経営をしています。特に、時間と労力をかけて育成した人材が何のためらいもなく転職していく現実には、ほとほと疲れ果てさせられます。
ではどうすればよいのでしょうか? 当社では次の3つの指針で採用・人材育成を進めています。
1.日本採用の人材は、日本で永住権取得を希望する人間を採用する
2.現地の人間は優秀な人材よりも努力する人柄の要員を重用する
3.優秀な女性は定着率が高いので十分な評価をする*
* 今年(2012年)は「龍の年」なので、中国全土で出産ラッシュになっています。このため、女性の産休が続き、笑えない現実もあります。詳細は過去の記事を参照。
それでも辞めていく人は辞めていきます。ですから、出て行った先で当社のビジネスを広げていただけるような関係を在社時から保っておくことも重要です。
採用を行う際、当社は現地の求人ポータルサイトなどに要望を挙げています。既に中国でも多くの人がインターネット環境を利用しています。インターネット経由で自ら応募してくる人材には期待できます。
中国人の面接を数多く経験していくと、どの人も自分の売り込み方が非常にうまいと感じます。しかし、実際に採用してみると、彼らの自己PRは話半分に聞いておいた方が無難だというのが実感です。
また、人材紹介会社から面接にきた中国人は、決まりごとのような発言をします。事前に人材紹介会社で面接シミュレーションをしているようです。これについては、日本と同じですが、自分の言葉で語れない人材は採用すべきではありません。
私自身もそうでしたが、中小企業では、中国赴任以前もしくは赴任後に中国語を学ぶ費用や時間を提供してくれるところはありません。
現地の言葉も学習せずに急に異国の環境に送られるわけですから、当初は自社内で日本語のできる中国人社員を頼ることになります。ここが問題なのですが、現地赴任直後にスタッフに頼り切りになってしまうと「いざ」という時に厳しいことを中国人社員に言えない弱みが生じてしまうのです。
ですから、当初から現地にいる日本人を管理職として雇い入れ、本社からはあくまでもサポートという形で赴任するというのも1つの手ではないかと思います。最初に緩めてしまった会社の規則を、後で厳しく徹底させるには、3倍の努力と苦労が必要と経験したからです。
中国市場に失望して撤退することも、会社整理という観点では決して容易なことではありません*。日本の国内市場も縮小の一途をたどっています。ありきたりではありますが、中国社会では中小企業はねばり強く我慢して、失敗を恐れずにトライし、活路を見いだしていくしかありません。
日本人のリーダーが希望を失えば、中国人の社員がついてくるでしょうか? 当社のような中小企業は中国では大きなビジネスはできないかもしれません。しかし、日本市場で当社がそうであるように、少数精鋭、身の丈に応じた売上と利益を確保できる中国企業にはなれると信じて、日々頑張っています。
* 企業撤退の難しさについては、過去の記事「中国生産に向けて日系企業が考えるべき法的課題とは」も参照。
アスプローバ株式会社
上海総経理 藤井賢一郎(ふじい けんいちろう)
日本の半導体工場にて製造管理システムを構築。ユーザーSEの経験を生かして、生産管理パッケージソフトウェアの営業として、一貫して製造業のお客さまに基幹システムを提案。Asprovaでは、パートナーのコンサルタント営業時代に、日本・中国を含む300社のお客さまに生産スケジューラを導入した経験を持つ。
大手だけでなく、独立系中堅・中小企業の海外展開が進んでいます。「海外生産」コーナーでは、東アジア、ASEANを中心に、市場動向や商習慣、政治、風習などを、現地レポートで紹介しています。併せてご覧ください。
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