中国にオフィスを構えて5年目。日本の成功体験が持ち込めない市場で、元総経理が見る中小企業の生きる道とは。
2012年で当社上海法人も中国で営業を始めて5年目に入ります。中国進出企業として1つの節目ともいえる年です。
振り返ってみると“中国市場”とはいいながら、筆者の会社では日系製造業のお客さまに大きく依存してきました。言い換えると、2009年のリーマンショック・2011年の震災・タイの洪水など、日本本国の好不況の波をそのまま受けてきたわけです。
中国市場が好調でも日本企業が投資を控える場面ではどうしても苦しい状況になりました。ただ、当社にとって幸いだったのは、中国人社員が頑張って中国の民営製造業へのアプローチをしてくれたことです。
ただし、本コラムでは何度も言及しているように、中国の民間企業とのビジネスは一筋縄でいかないことも多く、やはり、日本企業の投資が減った時期には何とか食いつないできた、というのが実情です。
B2Bの事業を中国で展開している日系製造業の皆さんも、類似の問題を抱えていることが多いのではないでしょうか?
前述の通り、中国系の民営製造業ビジネスは、国営のそれに比較すると金額が少なく回収率も悪いことがほとんどです。この5年間、中国での事業が継続できたのも日本に拠点を構える本社の支援があればこそ、という印象です。
先日、日本で当社ユーザーである旧財閥系資本の大手製造業の方とお話させていただく機会がありました。
この企業は10年前から中国に進出しており、現在は中国の国営企業と合弁してビジネスを大きくしています。
その責任者の方の言葉はいまでも筆者の耳に残っています。
中国のビジネスは日本とは違う。大きな投資を行って、大きなビジネスを一気に進めなければ、この広大な市場では競争に生き残れないよ
日本では単一のソフトウェアを開発・販売する専門企業として少人数で売上を上げる形で成功してきました。しかし、このモデルは中国で通用するでしょうか?
筆者らは多くの日本の製造業が中国市場に進出してくるのを見てきました。その中で、成功した企業・失敗した企業を見ていくと、彼らに共通するものがあります。それは何かといえば、中国特有のニーズのあるところに中国特有のやり方で、一気に勝負をかけて成功しているパターンです。
筆者自身も日本では、製造業のお客さまにたくさんの当社製品を販売してきました。当社なりのビジネスモデルを軌道に乗せるために少なからぬ貢献をしたとの自負心はありましたが、こちらの市場ではその自信は見事に打ち砕かれました。
そう、ここは中国、日本とは異なる国なのです。
筆者の主要顧客は日系製造業です。しかし、中国に構える工場であるからには中国企業であり、中国企業の論理とニーズで動いているのです。ただし、筆者も決して悲観ばかりしているわけではありません。
筆者は、実際に中国に来て、この国での日系製造業とのビジネスのタイミングや中国民営企業への対応の仕方について、中国人社員らと共にそれなりの回答を見つけてきました。
日系製造業を対象としたビジネスでは、日本本社の景況が悪い年には中国工場であっても投資が少なくなります。このような年には、無理をせず、われわれも種まきに専念することにしています。
逆に大きな市場であるが故に日本本社の景況が回復すると爆発的に売れ始めるのも、中国における日系工場の特徴です。今のところは、このときに精いっぱい刈り取りをするしかありません。
一方の中国民営企業に関しては、日本の中堅製造業と同様にもうかっている製造業は必ず投資をします。日本の工場数と比較すればその10倍以上あるわけですから、市場には当面事欠かないという算段になります。
今後、筆者らが注視しているのは、中国系の生産スケジューラが機能的に当社製品に追い付き追い越ししてくることです。これは、ソフトウェアベンダーだけでなく、われわれが普段、訪問している製造業各社も同様の危機意識を持っていることでしょう。
現段階では、当社製品をまねた製品は多いものの、まだ機能面では追い付いていません。ですから当面は大丈夫でしょう。しかし、それも追い付かれるのは時間の問題かもしれません。
当社の対処法は、日本で新規に開発した別の商品を中国市場のニーズにマッチさせていくことにあります。また、それに伴って必要となる工場単位の計画ニーズを連動して拾っていくことがポイントとなるはずです。
今回はあくまでも、当社製品と中国市場の話です。もちろんソフトウェアのことですから、ハードウェアを作る中小製造業のビジネスとは異なる点も多いことと思います。
相手が日本のメーカーであれ中国の顧客であれ、売れ行き傾向や特徴は大きく変わらないはずです。その点で、当社も資本・人材とも乏しい中小ソフトウェア製造業だと考えています。当社の悪戦苦闘の結果が、皆さんの参考になるのではないかと考えています。
お互いに人間ですから、日本人も中国人も楽してもうけられるならそうしたいはずです。安心して毎日が送れるのであればそれに越したことはないのですから。しかし、中国市場では先の引用の言葉の通り、一気に大きな投資をして刈り取る企業に有利です。中小企業にとって、こうした市場の特性は大変厳しいものです。
全員が「いつ倒産するか分からない」という危機意識を持ち、それを悲観的に受け止めるのではなく、バネにしてビジネスを拡大していくのが、中国における日本の中小企業の選択すべき道なのだろうと、現地法人設立5年目にして痛感していることです。
アスプローバ株式会社
藤井賢一郎(ふじい けんいちろう)
日本の半導体工場にて製造管理システムを構築。ユーザーSEの経験を生かして、生産管理パッケージソフトウェアの営業として、一貫してお客さまに基幹システムを提案。アスプローバではパートナーのコンサルタント時代に日本・中国を含む300社に生産スケジューラを導入した経験を持つ。2008年〜2011年まで上海法人の総経理を勤める。
大手だけでなく、独立系中堅・中小企業の海外展開が進んでいます。「海外生産」コーナーでは、東アジア、ASEANを中心に、市場動向や商習慣、政治、風習などを、現地レポートで紹介しています。併せてご覧ください。
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