華僑経済圏、倒産ラッシュ、コスト競争と現地化上海総経理のつぶや記(1)

中国・上海にオフィスを構える筆者がいま見て聞いた中国国内のモノづくり事情を紹介。市場構造、経済状況が目まぐるしく変わる中国、そして東アジアの現地の空気をお届けします。

» 2011年12月13日 13時50分 公開
[藤井 賢一郎/アスプローバ,@IT MONOist]

華僑経済圏に商機あり

 日々、日系製造業のお客さまとお会いしている間に、2011年の日本本土での震災・円高・タイの洪水と大きな災厄をはさんだ前後で、彼らの置かれている現状や将来がかなり変わってきたように感じられます。中国工場の位置付けとして、現地生産・現地販売の流れは以前からありましたが、それに加えて、中国で生産し、新興国に提供する製品が増えてきたことに驚かされます。そのために、中国国内での設計開発も盛んで、当社の代理店の中でもCADを販売する会社は大忙しとなっているようです。

 特にASEANをターゲットにした輸出では、この地域に華僑(海外に進出した中国人)が多いこと、コンシューマ向けの製品では肌の色や体格が同じアジア人として近いことなどから、中国で売れた商品=ASEANで売れる商品と気が付いたようです。

 中国とASEAN各国の間では既にFTAが発行されており、約19億人の自由貿易圏がそこに存在する事実からすれば当たり前のことのようにも思えます。今後はますますこうした流れが進むことでしょう。

 中国への進出には、反日のカントリーリスクが常に指摘されてきました。しかし、気が付けば、予測の付かない自然災害よりは、中国政府のコントロール下での障害であるということです。

 現在、中国国内市場でも、大きな第一級都市に続いて第二級都市でも日本製品の進出が盛んに行われています。これまでは、大都市の億万長者にばかり注目が集まっていた中国ですが、これら都市(第一級、第二級都市)に住む中間層の数は比較にならないほど多いのです。商品もこれまでは高級品と低級品に2極化していましたが、ここにきて中級商品の発売が増えてきています。リーマンショック後の家電製品の下郷*の結果、内陸の農村などにもテレビが普及し、日本製品のテレビ広告が増えてきたこともそれを物語っています。しかし、原発事故の影響でしょうか? 食料品などは以前の日本品質をアピールするものから、商品に中国名を付けて、中国工場製であることが逆に宣伝材料となっていることも皮肉に感じます。


*下郷 中国政府による内陸農村居住者に向けた家電製品普及支援政策のこと。


上海のスーパーマーケットに異変?

 上海のスーパーマーケットに行くと、以前は日本製品は高級品として“ひな壇”に飾られていましたが、いまでは、韓国製品やASEAN製の製品と同じ目線の商品棚に陳列されています。発展する中国では消費者はすぐに手に入るものを求めます。

 タイの水害の影響などでサプライチェーンが分断されて商品の提供が遅れた日本製品の“指定席”の多くは、他国の製品によって取って代わられているという現実があります。こうした中で、日系製造業の中国工場もこれまでのように本国工場や日系メーカーの工場に部品を納めているだけでは生き残れなくなり、その多くは中国のメーカーに製品を納めるようになりました。そこでクロースアップされてきているのは、納入価格の問題や、引き取り契約や支払いの契約事項に関する問題です。当社が契約している弁護士事務所でも契約書作成の代行や中国企業との取引上の問題点と対策セミナーの開催などで仕事が増えてきているそうです。

 半面、ここのところのインフレ抑制のための中国政府の金利政策により、無理な資金繰りをして事業を拡大してきた中国系の下請け会社の多くが倒産し、経営者が夜逃げしてしまったり、自殺してしまったりしていることが社会問題になっています。日系の中国工場がこれらの業者と取引関係を結ぶ際には、従前以上に相手の会社の与信調査が重要になってきています。

 中国では会社の与信情報を取得しにくいといわれますが、工場経営のこれら会社の場合、次の2点を調べることで、ある程度予測がつきます。

  1. 工場の資金のどの程度を銀行に借りているのか
  2. 残りのどの程度を町場の高利貸しから借りているのか

 居並ぶローン会社の店構えを見ると、この国の経済の基本が資本主義(筆者は“勝者主義”だと思いますが)であることを思い知らされます。

もはや現地化なしでは立ち行かない?

 さて、話題は変わりますが、最近の日系製造業の工場では現地化が進んでおり、以前は多くの日本人が常駐していた工場でも、総経理(社長)だけは日本人で残りのスタッフは全て中国人、というような工場もざらに見られるようになってきました。ローカル要員のスキルが上がってきたことも背景にあるのだと思いますが、それ以上に、中国市場や新興国市場でコスト的に勝つためには、人件費の削減が今まで以上に求められていることが大きな要因となっているのだろうと思います。

 よく言われることですが、新興国での勝負は品質ではなくコストとデザインが重要になります。韓国系の製造業は早くから中国国内のマーケティング要員を多く置いていましたが、ここにきて日系の会社でもその動きが出てきていることは、当社と提携しているコンサルティング会社へのマーケティング調査の依頼が増えていることからも想像できます。

 中国市場はまさに、分進秒歩、変化の激しいこの国で生き残るために、当社としても今後は、直接のお客さま(日系製造業の工場)の動向だけでなく、それらお客さまのお客さま(その先の中国市場の動静)をもしっかり見守り、今後の戦略を立てていかなくてはなりません。本コラムでは、今後数回に分けて中国市場の変化や世界の中での中国の位置付けなどを現地からの実感をもって分かりやすく、皆さまにお伝えしていこうと思いますので、ご期待ください!


著者略歴

アスプローバ株式会社
上海総経理 藤井賢一郎(ふじい けんいちろう)


日本の半導体工場にて製造管理システムを構築。ユーザーSEの経験を生かして、生産管理パッケージソフトウェアの営業として、一貫して製造業のお客さまに基幹システムを提案。Asprovaでは、パートナーのコンサルタント営業時代に、日本・中国を含む300社のお客さまに生産スケジューラを導入した経験を持つ。




海外の現地法人は? アジアの市場の動向は?:「海外生産」コーナー

大手だけでなく、独立系中堅・中小企業の海外展開が進んでいます。「海外生産」コーナーでは、東アジア、ASEANを中心に、市場動向や商習慣、政治、風習などを、現地レポートで紹介しています。併せてご覧ください。




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