失敗しても、ケガして済む程度なら、どんどんやった方がいい心技隊流「未来を創るヒント」

今回は、心技隊 事務局長であるエムエスパートナーズの伊藤昌良氏。今は経済的に厳しい時代だが、チャレンジしやすい環境ともいえる。そんな今だからこそ、“モノを作れない”商社を営む同氏は、自社製品開発に取り組んでいる。

» 2012年12月14日 06時00分 公開
[伊藤昌良/エムエスパートナーズ,MONOist]

 この間、「製造業は設備を当てにして、人間を当てにしなくなった」という言葉を耳にした。そのとき、何となく頭を殴られた気がした。確かに、最新鋭の機械を導入し、最先端の加工をするのは素晴らしいことだと思うのだが、その設備を使うのは当たり前ながら「人間」だ。しかし大手になればなるほど「人件費抑制」を合言葉に機械化を推し進め、現場から人間を排除してきた。「効率化」という響きのいい言葉に乗ってしまったというわけだ。

 ここで、当たり前なことをあえて書いてみよう。経営の財務的視点から見たら同じ経費かもしれないが、設備費と人件費は、本来同じてんびんに乗せるべき経費ではないはずだ。設備に経験値は残らないが、操作する側の人間には経験値が残る。

 その人間を次々とリストラし、財務上のバランスを取ることに必死になってきた成れの果てが、今の大手企業ではないだろうか。大手企業の社内に技術や経験値は残らず、「下請け」と呼ばれてきた中小製造業に経験値が蓄積される。大手企業は金に踊らされ、蓄積してきたノウハウまでリストラしてしまった。それは、近視眼的な経営が可能なサラリーマン社長だからこそできた決断ではないのか。

 経営もモノづくりも、全ては人から始まる。当たり前のことだ。なぜ大手企業は、そんな当たり前のことをないがしろにしてしまったのだろうか? そこには、資本主義とか株主制度とか、さまざまな問題点が折り重なっているのだろうけれど。

中小企業にとってはチャンス

 大手企業の多くが日本国内から出て行ってしまった“今”は、われわれ中小企業にとって大きなチャンスが転がっているときだと思う。つまり大手企業が抜けた場所に、ぽっかりとすき間が生まれ始めているというわけだ。いち早くすき間を見つければ、そこで生きられるのが、中小企業だ。そうすることで「かゆい所に手が届くサービス」を開発し供給していけば、それが新たなニーズとなり、市場となる。

 そんなことが既に、日本の至るところで起きている。その1つが、いまブームの家電ベンチャーだ。彼らは、市場を見つけ出し、ニーズをつかみ、製品とともにストーリーも組み立てている。つまり、製品とともにストーリーも売る時代となった。

 中小企業ならば、あまり難しく考えずに、年商の1%の売り上げを目標にして商品開発してみたっていい。自分たちの技術を軸に、企業の横連携を生かしたモノづくりで、だ。きっと今ある大手企業の中にだって、かつて他愛もないアイデア商品がきっかけで飛躍したときもあっただろう。

 失敗しても、ケガして済む程度なら、どんどんやってみればいい。それをできるのが「いま」という時代なのだから。

 わが社にも、非常に簡単なモノだが、年内の発売を目指して急ピッチで開発を進めている案件がある。わが社のように“モノを作れない”商社であっても、アイデアと企業の横連携さえあれば、少ない投資で自社製品が作れるし、ネットショップを利用して販売もできる。今は経済的にも厳しい時代ではある。しかし逆に、チャレンジしやすい環境ともいえるのではないだろうか? 少しのケガなら恐れず、一歩踏み出すことが大切ではないかと思う。

Profile

伊藤 昌良(いとう まさよし)

1970年生まれ。2004年に株式会社エムエスパートナーズを創業。加工部品専門の技術商社として、アルミ押し出し形材をはじめ切削加工部品やダイカスト製品などを取り扱う。「役割を果たす技術商社」を理念に掲げ、組み立てや簡易加工を社内に取り込みながら、協力会社と共に一歩前へ踏み出す営業活動を行っている。異業種グループ「心技隊」事務局長。「全日本製造業コマ大戦」の運営でも事務局を努め、製造業界に必要とされる活動を本業の傍ら日々取り組んでいる。


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