人手不足などによる中小製造業の事業承継問題が深刻化する中、中小製造業をネットワーク化する新たな取り組みが加速している。中小製造業である浜野製作所と、製造業の運営および支援事業を展開するO2は資本業務提携を行い、中小製造業の人材育成およびネットワーク構築に取り組むことを発表した。
中小製造業である浜野製作所と、製造業の運営および支援事業を展開するO2は2019年4月23日、資本業務提携を行い、中小製造業の人材育成およびネットワーク構築に取り組むことを発表した。2019年5月10日には東京都内で記者会見を開催し、浜野製作所、O2に加え、浜野製作所と協業関係にあるリバネスの3社で、中小製造業の再振興へのさまざまな取り組みについて紹介した。
日本の製造業の強さは「下流に広がるさまざまな中小製造業群にある」とされる。欧米など多くの国では生き残る製造業は大企業に集約されている場合が多い。一方で、日本では中小製造業が製造業の全体の中でも大半の比率を占めており、それが多彩なモノづくりを可能としていたという面がある。ただ、この強みとされる領域が瓦解しそうになっている。
中小製造業に、廃業や解散の動きが増えているからである。中小企業庁が毎年発行している「中小企業白書・小企業白書」の2019年版を見ると、中小企業(製造業だけではない)の廃業や解散の動きは年々増加傾向にあり、従来は3万件台だったのが、2018年には4万6724件へと増加している。さらに、中小企業全体でこうした休廃業傾向があるにもかかわらず、中小製造業に限れば「最も低い開業率」となっており、一度減ると今後増えないという状況が生まれているといえる。
こうした状況に対応し、多くの中小製造業が事業の方向性を転換し、生き残りを進められるように中小製造業のネットワーク化による新たなモノづくり基盤への取り組みを進めているのが、浜野製作所である。
浜野製作所は、東京都墨田区に本社を構え、板金加工やプレス加工を中心とする従業員数約50人の中小製造業である。ただ町工場グループと大学や研究機関との産学連携で取り組んだ「電気自動車HOKUSAI」や深海探査艇「江戸っ子1号」などを形としてきた異色の中小製造業でもある。
浜野製作所の代表取締役 CEO 浜野慶一氏は、21世紀の町工場が今後も生き残るために必要なこととして「下請け体質からの脱却」「モノづくり情報の上流からのコミット」「(中小製造業の)ネットワークの活用」の3つを挙げている。
浜野氏は「下請けの仕事は尊いものでそれらで安定的にビジネスができる見通しができる企業はそれで問題ない。ただ、事業が大きく変革する中で、継続的に成長を進めていくためには、仕事を受け身でもらうだけのビジネスモデルでは難しくなる。よりモノづくりの上流から参加する必要がある。つまり、製品企画や設計などの総合的なメーカーとしての役割を果たせるようにしていくということだ。ただ、中小製造業は1社ではできることが限られる。そこで必要になるのが中小製造業間のネットワークだ」と考えを述べている。
こうした考えの元、2014年に浜野製作所が設立したのが「GarageSumida(ガレージスミダ)」である。ガレージスミダは、浜野製作所の隣にあった倉庫を改修して作ったモノづくりのインキュベーション拠点である。ハードウェアベンチャー企業を呼び込み、参加するベンチャー企業などが実際にモノづくりを行う際には、手助けを行い新たなモノづくり企業を育成する。
既に福祉ロボット開発のオリィ研究所、パーソナルモビリティのWHILL、次世代風力発電機のチャレナジー、農業ロボットシステムのホープフィールド、ソーラーパネルの掃除ロボットの未来機械、単結晶材料の製造装置のアドバンスト・キー・テクノロジー研究所、IoT教育キットのレゾネストなど数多くのスタートアップの支援実績があるという。
浜野氏は「こうしたスタートアップ企業が身近にいることで、世の中の課題を解決するために真摯に向き合う姿や、製品を生み出す苦しみなどを目の当たりにすることで、メーカーとしての在り方をわれわれも学べている」と語る。
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