まるでApple製品のような? シャレオツ仏像フィギュアマイクロモノづくり 町工場の最終製品開発(16)(1/2 ページ)

オシャレな仏像屋さん製品開発奮闘記。“仏男”や“仏女”をターゲットに六本木で仏像とワインを楽しむイベントも。

» 2011年12月22日 12時00分 公開
[三木康司/enmono,@IT MONOist]
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かつて大黒さまの販売は、夢のようなビジネスだった

 今回取材したのは、埼玉県東松山市で、木製仏像製造、仏像フィギュア製造販売をするMORITAの社長 森田滋氏です。

 MORITAは、森田氏の祖父上が昭和43年創業した企業です。美術工芸品や縁起物の七福神の大黒さまなどの置物を台湾などから輸入して、販売するというビジネスモデルです。そこから発展し木造仏像を製作し販売する事業へと発展していきました。

ism MORITA 代表取締役 森田滋氏

 かつて戦後の経済復興時期では、縁起物の七福神の置物が、年末・年始で急激に需要が増えたものだそうです。毎年毎年、新しい物に買い換える縁起物ということで、個人や企業間の贈答用としてたくさん売れていきました。なので、一度販路を作ってしまえば、特に営業活動に力を入れなくても、景気の影響をあまり受けず、必ず毎年、決まった量のオーダーが入ってきたということです。

 そのため、最も好調だった時代、MORITAは日本全国の大黒さまのシェアの50%ほどを占めていたといいます。そんな夢のようなビジネスモデルを構築されたのが、森田氏の祖父上だったわけです。

 海外から安く輸入した縁起物の置物を正月の縁起物として販売店に卸し、販売して高い粗利を上げるというビジネスモデルが安定していた時期は、長年続いていきました。

ビジネスの陰りと自社ブランド製品作り

 しかし、森田氏が会社を継いでから、先代から続いたビジネスモデルに徐々に陰りが見え始めます。1990年代のバブル崩壊とともに、企業では縁起物を毎年購入するような商習慣が徐々になくなっていってしまうのです。

 それまでのMORITAでは典型的な下請け営業しか経験がありませんでしたが、宗教や信仰にあまり興味のない“一般の人”をターゲットにした自社ブランド製品を作ることを決意したのです。

 当時、仏像・縁起物の業界では有名企業だったMORITAでしたが、業界以外の人にとっては無名に等しかったはず。そんな同社が、ほぼ新規開拓となる一般の人たちを取り込もうと試行錯誤していきます。

挑戦その1:木彫りの怪獣で勝負

 森田氏が製品開発に悩む頃、ある企業から「有名な怪獣キャラクターの版権を使って木彫りの怪獣を作って欲しい」というオーダーが舞い込みました。「自社ブランドを確立するいい機会になれば」と思い、引き受けて製造したということでした。

 仏像づくりで培われた職人技を込めた怪獣は、森田氏いわく、「かなりの自信作」。「これは売れるぞ!」と感じたそうです。

 ところが、その自信とは裏腹に、通信販売店が新聞広告を出したにもかかわらず、残念ながら“ほとんど売れない”という結果に……。

挑戦その2:仏像屋なら仏像で勝負

 森田氏は悩んだ後、「仏像屋は仏像屋らしくいこう」と思い直しました。つまり、長年の本業である仏像で勝負しようということで、ある賭けに出ることにしました。

 よく家庭に置くような、典型的な“静かのお顔の仏像”ではなく、自社ブランドとして、国宝級の有名な仏像のフィギュアを作って販売しようと考えたのです。

 仏像屋さんが、「木製の仏像」ではなくて、「プラスチック製のフィギュア」を選択するということに、社長自身ジレンマはあったそうです。しかし造形美を追い求めるのは、「木製でも、フィギュアでも同じこと」だと思い切り、製作に着手したということでした。

阿修羅像フィギュアを作る

ism 「フィギュア」とは言いがたい!? 神々しいお顔をされているヒット作「阿修羅像」

 さて、まずどの仏像にしようか――ということで、まず思いついたのが、中学や高校の日本史の教科書でおなじみの「阿修羅像」でした。

 しかし、国宝級の仏像の造形データなど手元にありませんでしたし、まず、それを入手するのも、ほぼ不可能なことでした。

 「何か、策はないものか」と、あれこれ調べているうちにたどり着いたのは、ある原型師(量産前のフィギュア元形状を作る職人)でした。その方は、資料や写真集とにらめっこすることで、その写真を頭の中だけで組み合わせて立体像を描き、それを基に3次元造形データを作って、原型を製作することができるのです。


ism 原型から、シリコン型を起こす

 しかし国宝級の仏像の資料は、下の方から仰ぐように写真を取っている場合が多いものです。その写真をうのみにして原型を作ってしまうと、実際にでき上がった原型を正面から見ると、妙に縮こまったお顔になってしまうようなのです。

 原型師の頭の中の3次元像を何度も修正をしてもらい、何体もの試作を繰り返しながら、森田氏の納得の行く原型を作っていきました。

完成!

ism 阿修羅像の原型:しゃべりだしそうな表情

 「フィギュア」と銘打っていたものの、完成した阿修羅像の原型は、“単なるフィギュア”と片付けられない、まさに“魂の感じられる”素晴らしいミニチュア国宝になりました。

 森田氏はでき上がった阿修羅像フィギュアのサンプルを持って、早速、営業に走るのでした。

 果たして、森田氏の“今度こそ”の自信作は、うまくいくのか……。

一期一会

 MORITAは、長年続けてきた本業のおかげで、既に京都・奈良の土産屋さんに販路を持っていたので、まずはそこに阿修羅像フィギュアを売り込んでいきました。幸い、そこでの評判は良好だったといいます。

 “なんとなくいい兆し”が見えていた、そんな頃、ジャストタイミングともいえる感じで、阿修羅像に関連する大きな動きがありました。2009年に東京国立博物館で開催された、「国宝阿修羅展」です。

 この展示会は、2009年に世界最大の入場者数を記録*1した美術系展示会となり、大反響を呼んで、成功を収めました。この展示会の反響を受け、「阿修羅フィギュアは、売れる!」と予感した通信販売業者から、MORITAに掲載依頼が殺到したのです。

*1:英国の月刊誌「アート・ニューズペーパー」4月号の2009年の展覧会入場者数ランキングによる。

 そこで森田氏は、結構な費用を割いて、新聞に阿修羅像のフィギュアの宣伝広告を出すことにしました。

 その結果として、新聞広告掲載日の1日で、1体6万3000円(税込み)という値段にもかかわらず数百体のオーダーきて、最終的には約1700体のオーダーとなったということです。

仏像好きは、案外若かった

 阿修羅像フィギュアの成功により、「これはいける!」と森田氏は、それ以外にも有名な仏像フィギュアを次々企画して販売していこうと考えました。

 不動明王、弥勒菩薩、大日如来、千手観音、毘沙門天、そうそうたる国宝級の仏像を次々とフィギュア化して、シリーズラインアップを作ったのです。さらに「仏像ワールド」というWebサイトも立ち上げ、中高年(50歳以上)の“旧来の仏像好き”を狙って販売を開始しました。

ism 有名仏像フィギュアの数々(一部の商品のみ)

 かつて木製仏像が多く売れた時代は、「仏像ワールド」でターゲットにしたような、中高年が主な購買層といわれてきました。しかし実際に、MORITAの仏像フィギュアを購入する人の属性を調べるうちに、実は30〜40歳台と、想定よりも若い層が多いことが判明するのです。また彼らの多くが、仏像が“信仰の対象”というより、“自宅のインテリアの一部”として購入しているということも分かってきました。

 そこでMORITAでは、30〜40歳をもっと積極的に狙っていこうと動きだすのです。

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