今回は、身近な存在のようだけど、いまひとつ理解しづらい「マーケティング」についての解説。T字型人材を目指すエンジニアなら、ちゃんと説明できるようになっておきたい。
「マーケティングって何ですか?」と聞かれたら、読者の皆さんは何と答えますか? 職場で「マーケティング」という言葉を耳にしたり、口にしたりした経験はあると思いますが、いざ説明するとなると答えに困ってしまうのではないでしょうか。本稿では、身近な存在のようで、いまひとつ理解しづらい“マーケティングのイロハ”について解説していきます。
マーケティングの定義は抽象的ですが、平たく言うと「利益を出すための仕組みを考える」と理解できます。「仕組み」といわれても、いまいちピンとこないかもしれません。別の言い方をすれば、「誰に対して、どのような価値を提供するか」を決めることです。
それでは早速、具体的なアプローチを見ていきましょう。
まず、一番始めに行うのが「市場細分化(セグメンテーション)」と呼ばれるプロセスです。セグメンテーションとは、自社がビジネスを行う場所(=市場)を「市場セグメント」に分類することです。市場セグメントとは、「欲求や購買習慣などが似ていて、同じような行動を取るだろうと考えられる人々のグループ」のことです。「顧客のグルーピング」と考えれば理解しやすいでしょう。
例えば、自動車メーカーの場合、「価格を最優先する顧客」「機能を最優先する顧客」「ブランドを最優先する顧客」「安全性を最優先する顧客」といった市場セグメントに分類できます。
それでは、なぜセグメンテーションを行う必要があるのでしょうか? その理由は以下のように、主に2つあります。
私たちが生活する現在の日本は「モノがあふれる世界」です。再び、自動車を例にしてみると自動車が普及する前の時代では、「自動車が欲しい」が多くの人々に共通する欲求(ニーズ)でした。しかし、1世帯に1台自動車が普及し、自動車を所有することが当たり前の時代になるにつれて、「デザインが格好よい自動車が欲しい」「家族全員が広々と乗れる自動車が欲しい」など人々のニーズが多様化してきました。それら全てのニーズを満たす自動車を開発することは可能でしょうか? 開発コストなどを考えると現実的ではないでしょう。もし仮に、全ての人々のニーズを少しずつ取り入れた自動車の開発に成功したとしても、結局は誰の心も捉えることができない中途半端な自動車となってしまいます。
企業が保有する「ヒト、モノ、カネ」といった経営資源には限りがあります。それら、経営資源をどれだけ有効に使えるかが、企業の競争力を左右すると言っても過言ではありません。そのため、全ての顧客を対象にするのではなく自社にとって最適な顧客を見つけ出す必要があるのです。
セグメンテーションを行う際に重要になってくるのが、どのような「切り口」でセグメンテーションを行うかということです。「切り口」というと抽象的で分かりづらいかもしれませんが、料理をイメージすると分かりやすいでしょう。
例えば、玉ネギを切る場合なら、「ザグ切り」「せん切り」「みじん切り」とさまざまな切り方があります。これらの切り方によって加工された玉ねぎの用途は大きく変わってきます。市場も同じで、「どのような切り方をするか」で自社がビジネスを有利に展開しやすい市場セグメントにもなりますし、逆にしづらくもなるのです。
それでは、セグメンテーションの基本となる代表的な切り口を4つ見ていきましょう。
まず「地理的変数」です。これは居住区域や気候などで市場を分類することで、「東日本/西日本」「温暖地/寒冷地」といった切り口になります。
次に「デモグラフィックス変数(人口統計的変数)」で、年齢、性別、所得などの切り口を用います。
もう1つは「サイコグラフィック変数(心理的変数)」です。これはライフスタイルや価値観などで市場を分類することで、「健康志向」や「余暇を大事にする」といった切り口になります。
最後は「行動変数」で、「過去の購買状況」や「製品の使用頻度」といった切り口になります。
これら4つの切り口は、組み合わせることもできます。例えば、デモグラフィック変数とサイコグラフィック変数を組み合わせて「年齢、性別、健康志向」と切り口でセグメンテーションを行えば、「30〜35歳の男性でかつ健康志向の強い人」という市場セグメントを作り出せます。
セグメンテーションの「切り口」は自社が市場をどのようにグルーピングするかを表しています。誰もが思い付くような切り口では激しい競争に巻き込まれることになってしまいます。
試行錯誤しながら自社独自の「切り口」を発見し、競合他社が気づいていない新たなグルーピングを創出することが、マーケティングを成功させるはじめの一歩となるのです。
セグメンテーションの次は「ターゲティング」というプロセスに移ります。ターゲティングとは、「分類した市場セグメントのうち、どの市場セグメントを標的とするのか狙いを定めること」です。
まずは、ターゲティングの基本的な5つのパターンを見ていきましょう。
「単一セグメントへの集中」は、1つの市場セグメントに標的を絞って1つの製品を投入していくやり方です。このやり方は、小規模で経営資源に限りがある企業に向いています。自社の最も得意とする市場セグメントに集中することで、自社よりも規模の大きな企業にも対抗できるようになります(図1)。
「選択的専門化」は、複数の市場セグメントに対して、それぞれに特化した製品を投入していくやり方です。このやり方のメリットは、ある市場セグメントで利益が出なくても、他の市場セグメントで利益が出ていれば損失をカバーできるためリスクを分散させられる点です。一方、個別の製品を一から開発するにはコストが掛かるため、それに見合った経営資源が必要です(図2)。
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