日本企業の優位性と「血液の巡りがよいモノづくり」心技隊流「未来を創るヒント」

横浜のばね屋さん 五光発條の村井秀敏氏の考える、日本のモノづくりの優位性とは? 技術力の高さではなくて……。

» 2013年02月06日 11時00分 公開
[村井秀敏/五光発條,MONOist]

 日本人の美意識感覚では、お金の話をすれば、とかく「いやらしい」と思われがちだ。しかし、その全てが「おためごかし」ばかりとはいえないし、企業が生き延びるためにはその話は避けて通れない。

 自社の作り上げる製品で、お客さまを「喜ばせたい」「必要だと感じてもらいたい」という真摯な姿勢と、「当社を存続させたい」という真剣な志が、利益(金)を生み出す。

 よく、「お金は、会社にとっては血液だ」と例えられる。ただし私は、「空気」だと思っている。当り前だが、空気がなければ、人はものの数分で死に絶える。それと同様に、お金が尽きてしまえば、企業も死に至る。つまり、お客さまへの真摯な思いと自社の志は、生存のために不可欠な要素であるといえる。

 それでは、「血液」に当たるものは、何か。それは情報だと私は考える。人体(企業)は血液(情報)が途絶えた部位(部署、担当者など)から壊死していき、やがてそれが全体(会社)に広がっていくからだ。

 日本の企業においては、「報連想(報告、連絡、相談)」による情報伝達力が大事だ。情報の大切さを理解した上で、スピードある変革を実施する。また品質の高いモノづくりを継続していく。それらが他国と大きく異なる、日本ならではのモノづくりの優位性ではないかと私は考えている。

 また海外拠点での小ロット生産の場合、日本と同等な品質なものは取りあえず作れる。ただし、「継続して品質を高める」ところで難が出てくる。なので、その原因を早期発見するための仕組みづくりが必要だ。自社の海外展開においては、日本人の優位性を文化として根付かせるための管理や、監督者(マネジメント)の能力が必要だ。つまり、そこでも情報伝達をいかに行うかが重要というわけだ。

日本の優位性とは

 日本企業の「モノづくりの優秀さ」「技術力の高さ」について、よく耳にする。ばね屋(特に当社)の世界についていえば、残念ながらそれが優位性として当てはまらない。機械さえあれば、「どこの国でも」「どんな人」であっても、同等に研修すれば、ある一定の品質で製造ができてしまうからだ(ただし「日本人だけしか出来ないこと」を実践する会社さんもたまに存在します。そういう特殊なケースは別としてください)。

 では、われわればね屋にとっての「日本人ならではの優位性」とは、何か。まず外国人と明らかに違う特性が2点ほどあると考えている。

 1つは、先ほども言った報連想だ。例えば、当社が日頃からよくやりとりするタイ人やベトナム人についていえば、「自分がミスした場合は、それを認めてはならない」と教わるそうだ。日本人の場合、ミスを素直に認め、早急に報告し、全員でその問題を解決するのが通常だ。それこそがかつての日本が、一面の焼け野原から、たった数十年で、脅威のGDP第2位の経済大国という地位まで登り詰めた大きな原動力だったのではないかと私は考えている。

 さらに、「道」として高めようとする「美しすぎるほどの“こだわり力”」がある。日本は古くから、茶道や華道など、日常のさまざまな所作を「道(生き方)」として突き詰めてきた。こだわり続けてしまう、“癖”というか、“国民性”というか……、ともかくそんな精神は、他国ではなかなか見られないのではないかと思う。

 そういうわけで、ばね屋としては、海外では「どこよりも秀でた技術力で勝負」というよりは、まず「問題が発生した場合は速やかに報告すること」こそがとにかく大事だと考える。そして、「失敗は隠さないこと」。誰でも失敗する。すぐに報告があれば、むしろほめられるし、隠すなら叱られる。

 また、どんなささいな現場の声も拾い出し、柔軟かつ早急に対応し、変化・変革・革新し続けること。ばね屋の場合、世の中の変化は、まず現場担当者が感じ取る。その変化に対して、現場が戸惑う声(短納期、高品質、低価格、製造不可など)を発すれば、それが上司に伝達される。そこで解決出来ない場合は、さらに上層に届く。やがて、会社として、あらゆる経営資源(人、モノ、金、時間、情報、あるいは夢)を行使して解決していく。

 そのような情報伝達(血液)が行き届いた組織の下、「どうでもよい(製品機能上関係ない)こと」にも細やかにこだわる。ささいな仕事にも誇りを持ち、部品1個1個を「わが子のように」扱い、「よいモノを作ろう」と継続してコツコツと突き詰めていく。

 前にも書いたが、当社では「国内で100年後もばね屋を続けていくためには、一体全体どうすればよいか」、私は常に考えてきた。今は、現状の設備を最大限に生かして、高付加価値製品を作り続けること、そして経営資源である夢、つまり自社製品開発がカギだと思っている。その実現のためにも、「血液(情報)の巡りがよいモノづくり」が重要だと思う。

Profile

村井 秀敏(むらい ひでとし)

1個1円以下の量産工場のばね屋の3代目。2000年より小ロット多品種の開発試作に対応。男3兄弟で力を合わせてグローバル展開中。100年後もここ日本でばねを作り続けるために日々奮闘中。心技隊でのポジションは、「広報担当」または「スーパーガヤ壇長」。

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