自社のコア技術やアイデアを活用したイノベーションで、事業刷新や新商品開発などの新たな活路を切り開いた中小製造業を紹介する本連載。今回は、世界で初めて「凍結鋳造システム」の実用化に成功した株式会社 三共合金鋳造所の取り組みを取材した。
三共合金鋳造所(以下、三共合金)は、大阪駅から電車で15分の西淀川区にある。三方を河川を海に囲まれた西淀川区は、鉄鋼、金属、機械などの大規模工場が集積し町の発展を支えてきた。しかし重厚長大型工業の経営悪化とともに、工場の撤退が相次いだ。大手企業に部品を供給する町工場も減少した。
かつては、西淀川区に15社あったという鋳物工場も、今では3社を残すのみ。そのうちの1社が三共合金だ。自社のコア技術やアイデアを活用したイノベーションで、事業刷新や新商品開発などの新たな活路を切り開いた中小製造業を紹介する本連載。今回は多くの鋳造所が廃業したり郊外へ移転したりする中、世界初となる技術の実用化や新たなニーズの開拓により、今現在も西淀川区で鋳造事業を継続している三共合金の取り組みを紹介する。
鋳物製作には、多くの鋳造法がある。三共合金は昭和19年(1944年)の創業以来、砂型鋳造を行ってきた。これは金属を高温で溶かして液体(溶湯)にし、樹脂粘結剤を混ぜて固めた砂型に流し込み、冷却して鋳物を製造する手法だ。砂型を作る技法だけでも多数あるが、三共合金を一躍有名にしたのが、「凍結鋳型鋳造システム」という世界初の技術の実用化だ。
凍結鋳型鋳造システムは、砂型を作るのに樹脂粘結剤を使用しない。砂に水を混ぜて型を作り、マイナス40度で急速冷凍して固める。そこに1400度の金属を流し込んで鋳物を作るのだ。この冷凍システムは、大手冷凍機メーカーの前川製作所が2004年に開発した。
冷凍機メーカーである前川製作所が、この技術の実用化に向け共同開発をする鋳物会社を探していると聞いて、三共合金鋳造所 専務取締役の松元秀人さんはすぐに見学に行ったという。「そんなの無理だろう! と思ったけれど、鋳物屋として見てみたい技術だった」(松元さん)そうだ。
松元さんが、無理と考えたのも当然だ。溶けた金属が水に触れれば、水蒸気爆発が起きる。そもそも溶湯を流し込めば、凍った鋳型が溶けてしまうだろう。誰でもそう考える。従来の常識に照らし合わせれば、凍結鋳造は“非常識”な技術だった。
しかし、前川製作所でプラントを見学した松元さんは「これは、いける!」と感じたという。もちろん実用化に向けて課題は数多く残っていたが、それでも共同開発をしようと考えたのには理由がある。当時、三共合金が抱えていた課題解決に凍結鋳型鋳造が必要なシステムだったからだ。
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