オープンイノベーションやコラボレーションなどが広がる中、中小製造業でも必要になる機会が多いNDAについて解説する本連載。今回は、NDAを活用して秘密情報を開示する際、「特許で保護するには適さない情報(ノウハウ)」をどのように保護したらよいかという点について解説します。
江戸 健太郎(えど けんたろう)
大江戸モーター 代表取締役社長。小さいけれど技術力に優れたモーター企業の創業者。通称、えどけん。
矢面 辰夫(やおもて たつお)
業界最大手の自動車メーカーであるCFGモーターズの新規事業開発部門に所属。やり手。
*編集部注:本記事はフィクションです。実在の人物団体などとは一切関係ありません。
さて、オープンイノベーションなどが広がる中、中小製造業やモノづくりベンチャーでも必要性が増している秘密保持契約(NDA)の結び方を解説する本連載ですが、まず前回までの内容をおさらいしておきましょう。
第1回の「オープンイノベーションとはいうけれど、大手と組んで秘密は守れる?」と第2回の「NDAを結ぶ前に「特許出願」を行うべき3つの理由」では、従業員15人の中小製造業「大江戸モーター」が大手自動車メーカーである「CFGモーターズ」から協業を持ちかけられるという設定で、NDAを締結する前にやっておくべきことを紹介してきました。その中で前回は、NDAを活用して秘密情報を開示する前に特許出願を済ませておく必要性について解説しました。
電気自動車向けのモーターの小型化に成功した大江戸モーターは、展示会を通じて大手自動車メーカー「CFGモーターズ」から協業について打診を受けた。その際、モーターの小型化技術(情報A)を紹介してほしいという依頼を受け、同社担当者である矢面氏との第1回打ち合わせを設定した。矢面氏からは「初回の話し合いの前にNDAを結びたい」と契約書が送付されてきた。江戸氏は迷った末にNDAを結び情報Aについても一部を開示することに決めました。しかし、その情報AはNDAで本当に守られるのか……。
簡単におさらいをすると、江戸氏は、モーターの小型化技術の一部(情報A)を第一回目の打ち合わせで開示することを決めたので、情報Aについて特許出願が済ませておくべきだと説明しました。そして、その理由として、以下の3つの点を紹介しました。
例えば、よく技術者同士のディスカッションで発生するコンタミネーションとは以下のような感じでしたね。
こちらがわが社のモーター小型化技術の一部情報(情報A)となります。
なるほど。素晴らしい技術ですね。ただ、この構造であれば、わが社のこの設計の工夫を取り入れれば、さらなる小型化が可能になるかもしれません(情報B)。
さすがCFGモーターさんですね。その発想はありませんでした。ただ、その考えをこの小型化技術に取り入れると、小型化だけでなくパワーを向上させられますね。だとすると、他の用途にも活用できるかもしれません(情報AB')。
こうなれば、最終的に生み出される「情報AB’」が江戸氏または矢面氏のどちらに帰属するか分からなくなってきます。大手企業と中小企業やベンチャー企業との取引において、こうなった時に泣くことになるのは大抵、中小企業やベンチャー企業となります。それを防ぐためにも開示する「情報A」の帰属を明確にし、かつ自社のものとして保護する意味で「特許出願」が必要だという話でした。
さて、ここまで本連載で紹介してきた情報Aは、大江戸モーターが開発したモーターの小型化技術の一部という設定で「特許出願になじむ技術」であることを前提としていました。
しかし、仮にこの情報Aが「特許出願になじまない技術である場合」はどうしたらよいでしょうか。第3回となる今回は、自社の「特許出願になじまない技術」をどのように保護したらよいのか、ということを説明したいと思います。
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