「特許出願になじまない技術って何?」と思われる方も多いと思いますが、「情報Aが特許出願になじまない技術である」という場合の典型例は、情報Aがいわゆるノウハウである場合です。
ノウハウとは一言でいうと「製品(完成品)を解析・分析しただけでは分からないような技術情報」というように説明できると思います。その例としてよく挙げられるのが、ザ・コカ・コーラカンパニーが管理しているコカコーラの原液シロップの製造方法です。
真偽は不明ですが、このコカコーラの原液の製造方法は秘密裏に管理され、ザ・コカ・コーラカンパニーの中でも限られた従業員しか知らないという話を聞きます。
ノウハウとは先述した通り、製品(完成品)を解析・分析しただけでは分かりません。これは単純にマネをするのが難しいという一方で、ノウハウについて特許を取得しても、他社の製品が自分たちのノウハウを使用(侵害)しているかどうかが分からないということを示します。例えば、「情報A」がモーターの小型化の製造方法に関する情報である場合、以下のような状況が発生するわけです。
この製品には「情報A」で示した製法ノウハウが使われているじゃないですか! そうしないとこの性能は実現できないはずです。
そのノウハウは使っていません。別のやり方で実現したのです。 言いがかりをつけないでください。
江戸氏は「情報A」で示した製法ノウハウがないとこの製品はできないと主張しています。しかし製品をいくら調べたところで、そのノウハウを使って製品の性能を実現したのか、違うやり方があったのかということを証明することはほとんど不可能です。なぜなら、製法ノウハウである「情報A」を使用したか否かは、CFGモーターズの工場の製造ラインを見せてもらわないと分からないからです。
さらに、特許出願については前回説明したように、出願から1年半経過すると公開(Webサイトでも閲覧可能)されますので、自社のノウハウが全世界に開示されることになります。自社のノウハウを使用しているかどうかの証明が難しい上、情報そのものは一般公開されているとなると、事実上、自社ノウハウを使いたい放題という状況が生み出されてしまいます。
このため、仮に特許出願を計画している技術情報が、ノウハウに該当するといことであるならば、特許出願は中止した方がよいということになりそうです。
約10年前まで日本企業は、新技術を特許で保護するという点を重視し「ノウハウか否か」ということにそれほど注意を払わずに、新技術を積極的に特許出願してきたといわれています。その結果、特許出願の公開により、日本のノウハウが東アジアの新興国企業に流れてしまったといわれています。こうした反省もあり、現在は、実務家や学者には「ノウハウは絶対に特許出願してはならない」という意見を述べられている方もいます。
しかしながら、この点についての筆者の意見は少し異なります。筆者は、自社のビジネスモデル(技術売り、モノ売り、技術+モノ売り……)によってはノウハウであっても特許出願(特許権の取得)をすべき場合もあると考えています。
つまり、開発された技術から「特許出願するか否か」という判断をするのではなく、自社の(又は計画している)ビジネスモデルから判断するということです。開発された技術を特許出願することがこのビジネスモデルの促進(又は実現)に寄与するかどうかを検討することが重要です。それで寄与すると判断できれば、ノウハウであっても特許出願を検討すべきだと考えています。ただ、こうした検討・決断は、実際の商品、サービス、ビジネスモデル、開発された新技術の内容によって変わってきます。最終的にはそれぞれのビジネスの現場で、ケースバイケースで考えていくしかない種類のものになります。
さて、話が少し横道にそれましたが特許による保護が難しい「特許出願になじまない技術=ノウハウ」をどのように保護していくかという話を次にしたいと思います。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.